昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

2019/09/15

お家芸だったハリウッド西部劇はイタリアのものに

 とはいえ、テレビで人気を掴んで映画界に躍り出たからといってもそれを維持するのは難しい。しかし、落ち目のスターの受け皿であったB級映画を大手は作らないので、テレビに出て凌ぐしかない。落ち目のリックもゲスト扱いでテレビに呼ばれるが、悪役をやらされて新進俳優にやっつけられる。そんな彼が飛びつくのが、イタリア製西部劇“マカロニ・ウエスタン”からの出演オファーだった。一緒に観に行った筆者のワイフが「えぁ?! イタリアで西部劇なんか作ってたの?」と驚いていたが、60年代~70年代初頭のハリウッドはお家芸だったはずの西部劇がイタリアに奪われていた。

悪役を演じるディカプリオ(左)とタランティーノ監督

 このブームを作ったのは、これまたクリント・イーストウッドの『荒野の用心棒』(64年)。服はヨレヨレで清廉潔白からは程遠い主人公、暴力性を徹底的に打ち出したアクションなど、ハリウッドで作られていた正統派西部劇を真っ向から拒否したかのようなテイストが新鮮だと受けて世界各国でヒットしてイーストウッドも大スターに。これに続けとドカドカと作られ、ユル・ブリンナー、ジャック・パランス、ヘンリー・フォンダ、ジェームズ・コバーン、チャールズ・ブロンソンといったハリウッド俳優が出演した。

ディカプリオ演じるリックのモデルだというバート・レイノルズ ©Martin Mills/getty

 リックのモデル、バート・レイノルズはセルジオ・コルブッチ監督の『さすらいのガンマン』(66年)でマカロニ・ウエスタンに出演。リックも劇中で『ネブラスカ・ジム』という架空作の撮影でイタリアに渡るが、その監督としてセルジオ・コルブッチの名が出てくる。

ハリウッドの世代交代を迫るアメリカン・ニューシネマ

 それでもハリウッドは映画の都なだけに、新しい風が吹かないということもなかった。その最たるものが“アメリカン・ニューシネマ”。大恐慌時代に暴れ回った実在の強盗カップル“ボニー&クライド”を描いた『俺たちに明日はない』(67年)、西部開拓時代に名を馳せた無法者コンビ“ブッチ&サンダンス”を主人公にした『明日に向って撃て!』(69年)、ピーター・フォンダとデニス・ホッパーがハーレー・ダビッドソンで米南部を突っ走る『イージー・ライダー』(69年)が代表作で、主人公が悲劇的な最期を迎えるといったヒーロー不在の殺伐としたリアリズムに溢れた作品群は、マカロニ・ウエスタン同様に“清く正しく、明るく楽しい”といった従来のハリウッド映画に反旗を翻すものだった。

 

 この動きを『ワンス~』では大きくフィーチャーしていないが、“旧世代”のハリウッドで輝いていたリックがそうしたカウンター・カルチャーの象徴でもあったヒッピーを見かけるや「デニス・ホッパーめ!」と罵る姿、彼とブラッド・ピット演じる親友のスタントマンの息の合ったコンビぶりと佇まいに、なにかと二人組が主人公であることの多かった同ジャンルが反映されてはいる。