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「僕にとって今作は自分の思い出を詰め込んだもの」

 といった具合に1969年のハリウッドを取り巻く環境はシビアだったはずだが、たしかにタランティーノはその様相を克明に描いてはいない。かといって“古き良き”も前面に押し出していない。

クエンティン・タランティーノ監督 ©getty

 インタビューでも「僕にとって今作は自分の思い出を詰め込んだもの」(「週刊文春」2019年9月5日号)と語っているが、「この映画がノスタルジックかといえば言えるかもしれないけど、その感じが僕自身のものかといえば、決してそうは思わないね。1969年には僕はまだ6歳で、あの時代の人間とは思っていないから。(中略)僕はあくまで今の自分の視点で、あの時代に戻り、世界を描いてみただけなんだよ」(「キネマ旬報」2019年9月上旬号)とも発言している。あくまで彼が再現しようとしたのは、1969年に6歳だった自分が目にしたハリウッドの風景なのだ。

 さすがにタランティーノといえどもまだ子供。眺めているハリウッドが瀕死とは、わかるはずもなかったろう。そしてハリウッドとその歴史を知り尽くし、愛している現在の彼だからこそ、せめて自分の作品からはそれらを消し去ろうとしたのかもしれない。

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 劇中のハリウッドは多くの人と車が行き交い、新作の巨大看板が掲げられ、なんとか落ち目から抜け出そうと奮闘するリックという俳優の姿がある。そして、劇場には少なくなったといえども映画を観ようとする観客が集まる。これは実際に彼が目にした現実であり、こうあってほしいという虚構でもあるのだろう。

映画の不変のパワーに泣かされた

 LAのウエストウッドにある劇場で、シャロン・テートが1968年に出演した『サイレンサー第4弾/破壊部隊』を観るシーン。場内は客が多いとは言えないが、スクリーンのシャロンがおどけるさまに笑い、戦うさまに歓喜の声を挙げ、その様子に彼女は満面の笑みを浮かべる。そんな観客が一体となって映画を楽しむ姿にこちらも目頭が熱くなる。

 

 この時期はベトナム戦争の泥沼化もあってハリウッドのみならずアメリカ全土が混沌としていたはずだが、劇場は映画という夢を見せてくれていた。どの時代、どの場所でも、それは変わらないと思えるし、劇場で映画を観たことがある者ならば、同じような一瞬を体験した覚えがあるはずだ。この映画の不変のパワーみたいなものは、現実というか真実というか真理。

 少なくとも自分はそこに射抜かれたし、大いに泣かされた。というわけで、タランティーノの最高傑作であることに異存ありません!

INFORMATION

『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』
8月30日(金)より全国ロードショー
脚本・監督:クエンティン・タランティーノ
出演:レオナルド・ディカプリオ、ブラッド・ピット、マーゴット・ロビー ほか
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
http://www.onceinhollywood.jp/