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賛否両論の『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』 タランティーノがあえて描かなかった“惨状”とは?

賛否両論の『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』 タランティーノがあえて描かなかった“惨状”とは?

むかし、むかし、ハリウッドは……崖っぷちだった!

2019/09/15
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20年の間に、大手映画会社が次々と買収されていった

 ハリウッドの黄金期とされているのは1920~1940年代。1960年代はパラマウント、ユニバーサル、20世紀フォックス、コロンビア、ワーナー・ブラザースといった大手映画会社のほとんどが青色吐息を吐きまくり。パラマウントはガルフ・ウエスタンに、ユニバーサルはMCAに買収され、ワーナー・ブラザースは下請け製作会社だったセブン・アーツと合併したうえにレンタカー&駐車場チェーン(!)に買われるまでに至っていた。

 なんだって20年間でそんなふうに変わってしまったのか?

 

ウハウハから一転した「パラマウント・ケース」という訴訟

 すべてのはじまりはパラマウント・ケースという訴訟。1940年代までの大手映画会社は、製作、配給、上映をすべて自分たちで行っていた。製作した作品をグループで経営する劇場に配給して上映するわけだが、非傘下の劇場に作品を回さないなどの問題が起きたことから米司法省が業界の寡占だとしてパラマウント以下5社を訴えた。結果、1948年に大手各社は劇場との分離を強いられ、製作しかできなくなる。作った作品を片っ端から上映して儲けていたウハウハから一転、上映する作品を劇場に選んでいただこうとビクビクするように。そうなるとヒットを狙った大作に予算も人員も集中するので、低予算のB級映画を撮るなんて余裕なんぞナシ。しかも、コケたら大損。そこへ追い打ちをかけたのがテレビの普及だった。

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 遠くの映画館よりも居間のテレビというわけで、映画館への入場者数は激減。当然のごとく映画界の人材はテレビへ流出、スターもテレビから生まれるように。いまや名優で名匠のクリント・イーストウッドやバート・レイノルズもテレビから本格的なキャリアをスタート。『ワンス~』のリックも架空の50年代テレビ西部劇『賞金稼ぎの掟』でブレイクした設定になっている。