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香港デモは「オタク戦争」? 最前線のガチ勢“覆面部隊”の意外な正体とは

2019香港デモ 現地ルポ#2

2019/09/13

genre : ニュース, 国際

note

人民解放軍で訓練を受けて、香港警察に立ち向かう?

 最後に当事者の証言を紹介したい。以下は個人特定を防ぐため、Z氏を含めた複数の香港人や現地在住者による証言をまとめて一問一答式に再編集したものである(ちなみに、デモの前線にサバゲー愛好者がまとまって参加していることを明確に証言したのはZ氏のみだ)。

――香港デモの前線における勇武派の戦術は、サバゲー愛好者が立案しているのでしょうか?

◆2014年の雨傘革命以来、(サバゲーとは無関係の)勇武派自身が経験を積んできた面も大きい。また、ゲームと本気の戦いはまったく違うので、サバゲーの作戦がデモに直接的に転用できるかは疑問もある。ただ、一部の作戦についてはサバゲーの影響があるとみられる。

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――催涙弾の鎮圧手法や有効期限の確認といった知識は、ミリタリーマニアの知識が反映されたものでしょうか。

◆ああ。その知識がシェアされ、一般のデモ隊にも知られるようになった。ほかに催涙弾対策についてはフランスの黄色ベストデモがかなり参考になっている。

――デモの最前線に出ているサバゲー愛好者はどういう人たちですか?

◆個人や数人程度の小さな愛好家グループがバラバラに参加している。比較的、若いビギナープレーヤーが多い。現場指揮官クラスについてはベテランもいる。

――香港のミリタリーマニアが人民解放軍の体験キャンプなどで、純然たる趣味として軍事経験を積んでいると、数年前に聞いたことがあります。そうした人もデモに加わっていますか?

◆デモ参加者との直接のかかわりはなんともいえない。ただ、趣味としてそういう経験を積む人はいる。香港に駐留する人民解放軍(駐港部隊)よりも、中国内地の解放軍のほうが政治教育が少なくて好まれているが、解放軍の体験キャンプは正規の軍事訓練がいまいち少ないのが問題点だ。熱烈なマニアはアメリカに行って米軍の訓練を受ける人のほうが多い。

実は香港警察のデモ隊鎮圧指揮を執っているのは、植民地時代から残っているイギリス人幹部である。現在の香港デモの最前線では、イギリス人に指揮される警官隊と、アメリカや中国で訓練を受けた(可能性がある)サバゲー愛好者たちが戦っている。9月7日、旺角で撮影。

――今回の香港デモでは勇武派を中心に、デモ隊が強力なレーザーポインターを使って警官隊に反撃する例がかなりありますが、これはミリタリーマニアのアイディアですか?

◆こちらは一般人のアイディアだ。デモ隊が情報交換をするネット掲示板(『LIHKG討論区』)でシェアされた。

 聞き取りは以上だ。週末の香港島の衝突現場などで、一般参加者も含めてかなり統率が取れた動きが見られることはすでに書いた。ただ、彼らに対する全体の統率者は存在しないらしい。香港人は先進国水準の基礎教育を受けているため、周囲でテキパキと働いている人(=サバゲー愛好者)がいると、つられてテキパキと行動できてしまうのだ。これが香港デモ勇武派の「統率が取れた動き」の正体だと思われる。