香港のデモ活動はまったく収束する気配を見せない。平和的な抗議運動も続いているが、いっぽうで多くのデモの前線では警官隊とデモ隊の双方による暴力的な行為がエスカレートしている。

 私自身も9月6日夜、デモ隊の強硬な抗議がなされていた旺角警署前でカメラを構えていたところ、10メートル足らずの至近距離から、警官隊にレミントンM870(散弾銃)でいきなり銃撃された。

 銃撃に使われたのは暴徒鎮圧用のビーンバッグ弾のようだが、当時の私は周囲の記者たちと同じく蛍光色の報道ベストを着ており、背後にデモ隊もいなかった。香港警察の暴力行使のハードルが著しく下がっているのは間違いない。

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 いっぽう、デモ隊の抗議行動もエスカレートしている。上記の9月6日深夜には「香港を裏切った」としてデモ隊の恨みを買っている香港地下鉄MTRの駅が複数襲撃され、私自身も目の前で油麻地駅のガラスやエレベーターが破壊される様子を見た。

 また9月8日には香港島の中心部で米国総領事館に対する平和的な請願デモがおこなわれた後、午後4時過ぎから破壊行為が発生。地下鉄セントラル駅の出入り口のガラスが粉々にされ、さらに火をつけて燃やされた。その後、警官隊との間で激しい衝突も発生している。

上記の動画撮影場所とは別の路上でデモ隊が示した、警官隊が発砲したビーンバッグ弾。布の袋に入っており殺傷力が弱められているとはいえ、中身は鳥撃ち用の散弾だ

 過激な抗議行動には現地でも賛否両論がある。正直、「光復香港、時代革命(香港を取り戻せ、時代を塗り替えろ)」を連呼してガラスが粉々になるたび歓声を上げる群衆の姿はかなりファナティックだ。しかし、ひとまず今回の記事では、デモ隊の行為の道義的な是非は論じず、激しい衝突現場の前線に立っている人たちの性質を深堀りしてみることにしたい。

「ヨソ者は街へ入るな!」

 激しい抗議行動をおこなうデモ隊の一派は「勇武派」と通称され、人数は数千~1万人程度と見られる(顔を隠しているので正確な人数は不明だ)。香港の街は普段は平和だが、夜間を中心にさまざまな場所でデモ隊と警官隊との衝突が突発的に発生する。ただ、実は衝突の発生地域によって、前線にいるデモ参加者の雰囲気や、現場での動き方はかなり異なっている。

 たとえば繁華街の旺角・太子近辺(東京でいうと池袋に相当)で平日夜に起きる衝突は、一般市民が学校・仕事帰りにそのまま戦線に加わっていると見られる。マスクで顔を隠していない人もいるほか、デモ隊のトレードマークである黒シャツを着用せず、私服の人もかなり多くいる。

9月6日夜、旺角に集まった群衆。どこまでがデモ参加者でどこから野次馬なのかが判然としない。人混みの先には警官隊がおり、群衆から罵声を浴びている。

 戦線が下町地区に移動すると、単に騒ぎを聞いて集まってきたらしき、腕に入れ墨がはいった地元のヤンキー風の男性が角材や木製バットを手に警官隊に突撃する姿も見られる(デモのイデオロギー以前に警察が嫌いなのだと思われる)。

 当然、群衆の動きは洗練されておらず、野次馬とデモ隊の区別も不鮮明だ。彼らは警官隊を「死全家(sei2 chyun4 ga1:一家まとめて死にくされ)」と煽ったり傘を投げたりしては、催涙弾やビーンバッグ弾を撃たれてワラワラと散っていく。