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 いっぽう、香港中文大学のジャーナリズム・コミュニケーション学院講師の譚蕙芸(ヴィヴィアン・タム)氏に取材したところでは、市内中心部から外れた黄大仙・将軍澳など(東京でいうと北千住や小岩などに相当)で戦う人々は「デモ隊の若者グループとは異なる地域住民」だ。

 譚氏によれば彼らは歴史ある地域の古くからの住民たちで、大勢のヨソ者(=警官隊)が街へ入ることへの反発から、デモ隊に協力して戦っているらしい。別の人の証言によれば、新界(東京でいうと多摩地区に相当)の元朗や天水圍などで起きる衝突も、一部はある程度これと近い性質があるようだ。

“おしゃれな”香港島の勇武派部隊

 いっぽう、特に週末の午後〜夜間に香港島の中心部(東京でいう銀座〜丸の内間に相当)などでおこなわれる大規模衝突は、旺角や黄大仙などとは異なり、デモ隊の動きや服装がかなり洗練されている。

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 前回の記事でも書いたように、前線で火炎瓶を投げたり催涙弾を処理したりして攻撃・防衛をおこなう前衛部隊、旗を持って前進や撤退の指示を下す作戦部隊、中層部で敷石を破壊したり運搬したりする中衛部隊、後方で水などの物資を運ぶ後衛部隊……と、かなりきれいに分業がなされているのだ。

8月31日、催涙弾を防ぐための傘を開きながら銅鑼湾のヘネシー・ロード上に展開するデモ隊。セブン‐イレブンは香港でもメジャーなコンビニだ。

 こちらの中衛〜後衛部隊(前線にも多いが)を構成するのは、一般の学生や比較的低所得層の若年労働者とみられる人たちだ。彼らは普通の黒シャツ姿で、ヘルメットも工事用などの実用品を身に着けている。

 なかには黒のタンクトップにホットパンツ姿で、防毒マスクを付けつつもおしゃれなコーディネートを決めている若い女性や、私物のカバンを持ったまま戦っている女子中高生などもいる。9月8日のセントラルでは、小学生とみられる男子児童がマスクで顔を隠しつつ路上の敷石の粉砕作業に従事している例すらあった。

デモ戦線を支える「謎の覆面コマンドー集団」

 だが、最前衛部隊を中心にちらほらと見られるのは、顔の部分以外の全身をぴっちりとした黒い布で覆った、スマートな体型で機敏かつ組織だった動作をおこなう特殊部隊のような若者たちの複数の集団だ(以下、「覆面部隊」と呼ぼう)。

 彼らは進撃・撤退やバリケード構築などをおそろしく手際よくこなすうえ、戦場慣れしているらしく銃声や催涙弾の着弾くらいではひるまない。分厚そうなヘルメットをかぶっている人や、手袋をしている人もいる。

覆面部隊「ガチ勢」よりも若干ユルめな印象だが、完全武装をしている人々。とはいえ服装が完全に統一されているわけではない。8月31日、セントラルで撮影。

 覆面部隊たちは警官隊と衝突するときも、怒りに任せて衝動的な行動に出る様子はまったくなく、淡々とした様子でミッションに従事している。彼らが前線に立つとデモ現場の雰囲気は一気に引き締まり、他の一般人参加者の動きもよくなるようだ。

 今回の香港デモには明確なリーダーがおらず、統括的な組織も存在しない。これは多くのデモ参加者や現地ジャーナリスト・研究者らに取材しても一致した意見であり、おそらく真実だ。だが、それならば、戦闘行為の「ガチ勢」とも言うべき覆面部隊は何者なのだろうか?