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火炎瓶から催涙弾の消し方まで――なぜ熟知している?

 実は他にも、今回の香港デモの最前線では不思議な光景が数多く見られる。たとえばTwitterなどでは、警官隊が放った催涙弾に対して、デモ隊が水筒の水などを使って非常に手早く無効化処理をおこなう動画がいくつも投稿されている――。のだが、彼らはどこでそんな方法を知ったのだろうか?

 また、近ごろは着弾後の催涙弾をデモ隊がチェックし、使用期限が切れているものについては証拠を保存、健康問題を引き起こすとしてSNS上などで告発する動きも見られる。しかし、そもそも催涙弾に使用期限があること自体、一般人はまず知らない知識である。彼らはなぜ、そんなマニアックな事情を知っているのだろうか。

 加えて私が確認した限り、勇武派が集まるSNSのコミュニティには、すくなくとも7月ごろから火炎瓶を作成する詳細なレシピが出回っている。

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写真には写っていないが、左手画面外に勇武派、右手画面外に警官隊が展開している。両者の中間地点のちょうどよい場所に落下し、ささやかに燃える火炎瓶。背後には勇武派が投げ返したかと思える催涙弾が転がっている。8月31日、銅鑼湾付近で撮影。

 8月31日の銅鑼湾などの衝突現場で観察した限り、この火炎瓶は着弾するとパッと燃え上がるいっぽうですぐに火が消え、あまりくすぶらない。市街地で投擲しても火事になりにくいという、戦闘フィールドのTPOに合わせた謎の安全性を誇る優良兵器なのだ。

 ちなみに、火炎瓶の投げ手はかなりコントロールがよく、警官隊や報道陣に直接命中しない絶妙な場所に着弾させることが多い。覆面部隊は火炎瓶を攻撃の手段ではなく、警官隊の足止めや抗議意思の表明を目的にした防衛・示威兵器として使用する作戦方針を持ち、それをきっちり実行しているように見える。

香港デモ、最精鋭部隊の正体

 激化する香港のデモに対して、中国国内メディアは「外国勢力による扇動」というプロパガンダを流し続けている。実際のところ、これは仮に存在するとしても海外の反共派華僑を通じた資金援助くらいだろう。だが、統率が取れた動きをおこなう覆面部隊を見ていると、もしかして本当に第三国の軍事コマンドーが投入されているのではとすら思えてくる。

 ところが、現地で確認すると覆面部隊のメンバーは香港式の違和感のない広東語を話している。周囲の一般人のデモ隊も彼らを同胞として信頼しているらしく、いぶかしんだり恐れたりする様子はない。

9月8日、勇武派が一時的に占拠したセントラル駅構内で、仲間と連絡を取り合っているらしき覆面部隊の男性(左)。他の比較的軽装のデモ参加者と混じっているが、トラブルは起きていない。

 卓越した軍事知識と個々の戦場での戦術眼を持ち、統括組織がないにもかかわらず疑似組織化された一糸乱れぬ行動をおこない、しかも他の参加者からも仲間として認められている謎の香港デモ最精鋭部隊。彼らはいったい何者なのか?

――答えを書こう。それは、ただの「趣味の人」である。

「デモの前線には、直接の知人を含めてかなり大勢のサバイバルゲーム(サバゲー)愛好者グループのメンバーが出ています。他に後方での物資支援部隊や救急支援にも、サバゲー愛好者たちがかかわっています。もちろん、前線にいる人(覆面部隊)の全員がそうであるわけではなく、普通の人もたくさんいますが」

 22歳の香港人サバゲー愛好者の男性・Z氏はそう証言する。実は香港デモにミリタリーマニアやサバゲー愛好者が多く加わっているという話は、私の現地取材の過程で複数の情報源から耳にしていた話だ。Z氏は言う。

「今回のデモが起きてから、親共的(親中国的)なメンバーを外したうえで、一部のサバゲーグループがデモに加わるようになりました。そのためか、夏休み期間は香港のサバゲーフィールドが賑わう季節なのですが、今年は明らかに閑古鳥が鳴いています」