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香港デモは「オタク戦争」? 最前線のガチ勢“覆面部隊”の意外な正体とは

2019香港デモ 現地ルポ#2

2019/09/13

genre : ニュース, 国際

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香港ミリタリーショップはこう証言する

 香港において、いわゆる「ミリオタ」や「サバゲーオタ」の聖地として知られるのが、ミリタリーショップやモデルガン販売店が軒を並べる旺角の広華街界隈である。私がこの街で聞き込みをおこなった複数店舗の経営者の証言を、以下に順不同で記しておこう。

「近年、香港のサバゲー愛好者はタオバオ(中国IT大手アリババが提供するオンラインモール)でグッズを買う傾向が強かった。ただ、今回のデモが始まってからデモ装備に転用できそうな商品をタオバオで買えなくなり、うちに買いにくるデモ隊らしき若者が出てきています」

「うちにもよくデモ隊の若者が来ますが、うちは本物の軍隊放出品を扱う店なので単価が高い。デモ隊の若者たちは使い捨てにできるような装備を安く欲しがっているらしく、うちの店で買う人はいませんね」

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「うちの店でよく売れるのは、催涙ガスや唐辛子ガスを防げるゴーグルや、催涙弾を投げ返すための手袋などです。ただ、購入者はデモ隊に限らず、デモを取材する記者や、デモ隊に潜伏する目的を持った警察関係者らしき人物が買っていく例もあります」

ミリタリーショップやモデルガン販売店が多い広華街。なお、背景の店舗と本文中の聞き込み先は一致しない。9月某日撮影。

「中国人の客が大勢で来て『本物の銃や爆弾はないか』と聞いてきて閉口したことがあります。サバゲー用品店にそんなもの置いているわけないでしょう(笑)。どうやら香港内の親中派グループが、中国内地でデモ潰し要員のバイトを雇って連れてきているみたいですね」

「うちの店では、ヘルメットや腰につける救急バッグがよく売れます。ナイフなどで切りつけられないように、強化服を求める人もいますね。実は最も多いリクエストは、軍用の本格的な防毒マスクなのですが、うちが扱っているのはあくまでもサバゲー用のグッズ。お断りしています」

 サバゲー用のヘルメットや手袋は、最前線の勇武派の装備だ。もちろん購入したデモ参加者の全員がサバゲー愛好者ではないはずだが、愛好者たちも自分の本来の装備でデモの前線に出ると個人を特定される可能性があるため、新たに装備を購(あがな)っていると見られる。

 なお、広華街では現在のデモに対して「売上が減っている」「社会を乱している」と批判的な姿勢の店舗も多く、その他も大部分は中立的だ。デモ隊に積極的に協力している店舗がほとんど存在しないことは強調しておきたい。