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「オタク・ウォー」としての香港デモ

 本来は自由の街である香港は、日本に匹敵するアジア有数の趣味人天国であり、鉄道模型やアニメ、アイドルなど各種各様のオタクが大量に存在する。デモ界隈でも、たとえば2014年の雨傘革命の学生運動リーダーだったジョシュア・ウォン(黄之鋒)はガンプラマニアだ。日本でも知名度が高いアグネス・チョウ(周庭)が、日本アニメ好きであることも比較的よく知られている。

 Twitterなどで多数見られる、日本語を用いてデモ隊の主張を発信する大量の「文宣組(宣伝部隊)」にも、アニメやゲームで日本語を覚えたオタクがかなり多く含まれている。また、雨傘革命や今回のデモでは非常に質の高い告知イラストや宣伝イラストが大量にネット上に流れているが、これらも「絵師」や「フォトショ職人」が個人的におこなったもののようだ。

 9月上旬には、有志のアーティストらによって通称「香港国歌」なるものが作られたが(『願栄光帰香港』)、こちらもまたたく間に、さらなる有志を通じてボーカロイドが歌う日本語版が作成された。

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 オタクが持つ専門知識や特殊技能が、ときとしてプロを上回るパフォーマンスを発揮することはご存知のとおりだ。香港人の若者層が熱狂的に参加する今回のデモは、アニメオタクは日本語で、フォトショ職人は宣伝イラストで……と、さまざまなオタクが秘められた能力を発揮する「オタク・ウォー」という性質がある。

 もちろんミリタリーマニアやサバゲー愛好者も、他の分野のオタクたちと同じく、彼らが持つ軍事・警察知識や実地の戦場勘を提供することでデモに協力している(なので、ミリオタやサバゲーオタが特に好戦的な傾向が強いというわけではない。もちろんデモに参加しない人たちも大勢いる)。

 趣味者革命、ここにあり。なんとも香港らしいデモの側面であると言っていい。  

※本稿の執筆・取材には軍事ライターの石動竜仁氏(Twitter;@dragoner)、台湾人翻訳者で軍事ライターの許哲睿氏(Twitter;@TsoJueiHsu)にご協力をいただいた。

写真=安田峰俊

「文藝春秋」10月号では、安田峰俊氏の香港デモ現地フルレポートを掲載している。

文藝春秋2019年10月号

 

文藝春秋

2019年9月10日 発売