日本人の2人に1人はがんにかかり、3人に1人はがんで死ぬ。がんはそれほど身近な病気であるが、近年、画期的な医療手段が次々に誕生している。

 なかでも脚光を浴びているのが、「がんゲノム医療」である。

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 がんは遺伝子との関連性がきわめて強い病気だ。患者に適した薬や治療法を探し出すために、まずはその患者の遺伝情報(ゲノム)を読み解く……それががんゲノム医療のアプローチだ。

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かつては数十万円かかっていた先端医療

 今年6月1日から、日本でも「がん遺伝子パネル検査」が保険適用になった。保険適用になったのは、国立がん研究センターが医療機器メーカーのシスメックスと共同開発した「NCCオンコパネル」、中外製薬の「ファウンデーションワン」というシステムだ。

 患者が負担する費用は約17万円(高額療養費制度を利用できる場合はさらに低額になる)。かつては数十万円かかっていた先端医療がこの金額で受けられるメリットは大きい。

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 だが、東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センター長の宮野悟教授は、「パネル検査では不十分」と指摘したうえで、「全ゲノム解析」の有効性を強調する。

 いったいなぜなのか?

「遺伝情報を、池の底までさらうように調べ尽くす」

 宮野教授は人気テレビ番組『緊急SOS!池の水ぜんぶ抜く大作戦』(テレビ東京系)を例に、わかりやすく説明する。

宮野悟教授

「この番組を見てわかるのは、池の中の外来種をすべて駆除するには、水を全部抜いて底までさらうしかないということです。釣ったり網でさらったりをいくら丹念にしても、取りこぼしは必ずある。残った外来種は、時間が経つとまた増えます。

 がんについても同じことが言えます。患者さんの体内を荒らすがんの元凶を探すには、その患者さんの遺伝情報を、池の底までさらうように全部調べ尽くす(全ゲノム解析をする)必要があるのです。

 ところが、先ごろ保険適用になった遺伝子パネル検査は、患者さんのゲノム全体のごく一部を検査するに過ぎません。池の水を抜かず、網で外来種を捕獲しようとするようなものです」