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北斎の描線は生命力を表す
北斎には浮世絵版画も肉筆画も多く残る。抜群の画力を誇った北斎には構図、人物描写、自然表現の繊細さ、テーマ設定の巧みさなど他の追随を許さない美点が山ほどあるけれど、なんといっても描線の巧みさが際立っている。北斎作品は線が命であり、《冨嶽三十六景 凱風快晴》に描かれた稜線はまさにそれを実地に示している。
展示では他にも「諸国瀧廻り」や「諸国名橋奇覧」のシリーズが観られる。名勝とされる滝や橋のある風景を描いており、ここでも富士と同じく、主役たる滝や橋が並々ならぬ存在感を醸し出している。その「強さ」の要因はやはり描線と言えよう。自在な力強い北斎の線が滝や橋を描き出すと、それらがまるで生命を吹き込まれたかのように躍動しはじめるのだった。
映画もアニメもゲームもスマホもなかった江戸の時代に、北斎が生み出す浮世絵は市民たちにとって、極上のエンターテインメントだったのだろう。そんな想像を膨らませながら会場を巡ってみたい。