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ベイスターズ、初めての「本拠地CS」の恐さ――でも「今日は勝てる」と割と本気で思える理由

文春野球コラム クライマックス・シリーズ2019

「熱いぜ!」

 書き出しの決まっていた原稿は、ハマスタを出る前に、全部消した。ふと目に入ってきたスポニチ阪神番・巻木記者のツイッターには、“【激アツ情報】6点差逆転はCS史上最多逆転劇”とある。同じくチャリコ記者は5打点を挙げて大逆転の立役者になった北條史也選手のとっておきの話を書くと息巻いている。

 激アツだ。「熱いぜ」では済まない激アツな日だった。

 10月なのに32度? いやさ。はじめての本拠地横浜スタジアム開催のクライマックスシリーズ第1戦だ。燃えたよ。真っ白に。いや真っ黒だ。黒い煙が出てるやばいやつだ。おじさんはまださっき目の前で起きた大逆転負けを消化することができず、関内の町をプスプスとくすぶりながら彷徨ったのち、伊勢佐木町のネットカフェでこれを書いている。受付に並んでいたお客さんがベイのユニを着ていた。いとおしい。漫画でも読まなきゃ切り替えられないものね。

超満員の横浜スタジアム

野球は最後までわからない。改めてそう思った

 今日の試合、ほんとに凄かった。超満員の横浜スタジアムに、ウイングシートまで反響がこだまする「勝利の輝き」。ツバサよご覧、あれが本拠地CSだ。って驚いたのは、あの声援の大きさや95歳の今西廉太郎さんの始球式だけじゃない。球団買収が出た時に名乗り出てくれたノジマが、このCSの冠スポンサーになり、10億円大還元セールなんてことまでやっている。時代は変わった。

 先発は石田健大だ。2年間、開幕投手の期待を掛けられるも結果を残せなかった左腕が、この大舞台での先発を任されて、抜群のピッチングで応えた。5回からは現エース今永昇太がバトンを受け継ぐ。打線だって初回神里ソトが連続安打で筒香が先制3ラン。柴田が攻守にわたってすばらしい仕事してさ。ダブルスコアで負け越したシーズンの対戦成績もどこ吹く風。6回が終わった時点で7対1。同行者に「やはりラミレスは短期決戦の鬼、ミハラミレスオサムだね」なんて軽口を叩いていたのですよ。この口が。

「野球は最後まで何があるかわからない! しかし、我々には明日がある」

 関内駅前で辻説法をしている通称革パンさんが、敗者の行列に熱く語りかけていた。確かにそうだけど、と切り替えられずにいたら、「お昼休みはウキウキウォッチング」と禅問答のように歌いだした。おそらく「今日はダメでもいいともろー」といいたいのか。過去の阪神戦不利の苦手意識を「昨日までのガラクタを処分処分」と訴えているのか。

 真意はともかく、野球は最後までわからない。改めてそう思った。今日、阪神タイガースは必死だった。先発の西がアクシデントで1死も取れずに降板しても3回投げたガルシア以外1人1回必殺の8人の継投で乗り切り、代打も惜しみなく使い、6点差がついても、足をからめて長短打。選手もスタンドの声からも諦めている空気は微塵もなかった。

 諦めない野球って、今のベイスターズのベースになっている大切な教えだ。これをずっと言ってきたあの人。中畑清前監督は、ロイヤルルームみたいな高いところからガッツポーズを振りまく。筒香がスリーランを打ったときなんて、子供みたいにはしゃいでいたのを見た。懐かしかった。うれしかった。この人が監督になった頃、CSは来世ぐらいの勢いで現実的なものではなかったから。

一度は紙切れになったチケットが復活

 この日の午前中。中畑清はもうひとつの仕事をしにハマスタに来ていた。DeNAの1年目だった2012年、カープ石井琢朗の現役最終試合にして新沼慎二の引退試合となった最終戦で販売された「~感謝、そして夢~新・熱いぜ!チケット」。これは普通のペアチケット代に1000円をプラスすれば、4年間のうちに本拠地でCSが開催された時に席をプレゼントするという企画だった。結局2016年までに約束は果たされず、一度はチケットが紙切れになったのだが、今年の本拠地開催が決定するや復活が決定。当時の監督だった中畑清からの手渡しで、購入者50名にCSのペアチケットがプレゼントされることになった。

2012年に販売された「~感謝、そして夢~新・熱いぜ!チケット」

「よく来たよあんたら。しぶとく残っていたな。普通諦めるぞ。(ベイスターズが)最後まで諦めない、いいチームになったことは僕も嬉しい。夢がかなったよ」

 ひとりひとりとガッチリ握手するキヨシ。この企画が発売された監督1年目は46勝85敗13分け。DeNAになっても5年連続どん底の最下位だったあの当時からCS出場を信じてくれた、ご褒美という意味もあるのだろう。

ひとりひとりとガッチリ握手する中畑清前監督

「あのチケットは『3年でCS、5年で日本一』を目指した私たちの誓いを形にしたものでした。本拠地開催が決まってすぐに、あのチケットを買って信じてくれた人たちの思いに報いたいという意見が出ました。それはみんな同じ気持ちだったと思います」

 DeNAベイスターズチケット部の野田尚志氏が言う。

復活を果たした「新・熱いぜチケット」

 そんな「新・熱いぜチケット」は、実はおじさんも権利を持っていたのだ。だけど、復活が決まった数日後に、当時の試合を一緒に観戦したチケットを持っていたすずき君から連絡がきた。

「熱いぜチケットですが、奥さんと行ってもいいですか?」