今、最強の敵はソフトバンクなんだ
僕らパ・リーグファンは日本シリーズを見て、あぁ、こうなるとソフバンに持っていかれるなぁとブツブツひとりごとを言っていた。手持ちの「ソフトバンク戦の負けパターン」がフォルダいっぱいになっている。そして、今季はロッテがソフバンに勝ち越したから、ロッテファンの友達には「巨人はロッテより弱い」と定型ネタをLINEで送りつけたりしていた。1989年の日本シリーズ、近鉄・加藤哲郎が言ったとされる(本当は言ってないらしい)コメントだ。それが30年たって、こんな形でまた語られるようになるとは。
2013年 楽天〇-巨人●
2014年 ソフトバンク〇-阪神●
2015年 ソフトバンク〇-ヤクルト●
2016年 日本ハム〇-広島●
2017年 ソフトバンク〇-DeNA●
2018年 ソフトバンク〇-広島●
2019年 ソフトバンク〇-巨人●
これは2012年セの出場チーム(巨人)が最後に勝って以降、パ・リーグが7年連続日本一になってる様子だ。7連連続、セは栄冠がら遠ざかっている。7年連続ってもうあと2年足すと巨人のV9と同じ長さになる。いや、ありがたいことに楽天・田中将大、日ハム・大谷翔平と大駒が使えたときにはソフバン以外も日本一になっている。が、だいたいソフバンなのだ。大変なことじゃないか。
僕の世代は高度成長期、巨人V9をダイレクトに体験している。子どもの頃、日本シリーズというのは巨人がパ・リーグ代表チームを打ち負かすものだと思っていた。それが今、形を変えて(だいたい)ソフトバンクがセの代表を打ち負かすものになってきている。今、大学生高校生くらいの層は「(だいたい)ソフトバンク王朝」の時代しか知らないと思う。
長谷川晶一さん、どう思う? 1シーズン、ヤクルト軍記を語りきり、お見事でした。文春日本シリーズ、おつかれ様です。で、どう思う?
広岡達朗さんの原稿で「巨人コンプレックス」の話が出てきた。僕の世代は(パ・リーグファンであっても)それがよくわかる。後楽園球場、東京ドームで「裏開催」の悲哀を舐め、身に沁みている。
が、今、最強の敵はソフトバンクなんだ。もう巨人にバッテンつけなくていい。巨人をまったく寄せつけず、シリーズ後には原辰徳監督に「セもDH制を導入すべき」と危機感をつのらせたチームがプロ野球の先頭を走っている。
違うかなぁ?
僕には三原脩、広岡達朗、森祇晶、王貞治と、巨人を離れた者が「貴種流離譚」よろしく艱難辛苦の末、自らの王国を築き、「打倒巨人」を果たすストーリーがついに果てまで行き着いたように見える。「打倒巨人」でありながら巨人の強大さを無限延長させてしまうループ構造が終わったように見える。
たぶんセ・リーグのチームは位相が異なるだろう。長谷川さんからはどう見えるのか?
だから、これはパのリアリティなのだ。1勝もできず、パ・リーグ王者の面目をつぶされた友達と、5位に甘んじて気楽な僕が「ソフバン何て強ぇんだ!」と戦慄しながら語り合ってる話だ。
そして、三途の川の関所ーーー。
帳面をパタンと閉じて、赤鬼がニヤッと笑うのだ。エンマ様が「結論が出たようだな」と言う。「要するに……だ、ソフバンにやられてたんだろ?」。うわ、自分の根幹がそんなことだったら悪夢だ。
来年はこの借りを返すぜ!! なぁ、西武、楽天、ロッテ、オリックス! なぁ、セ・リーグ! あれっ、ロッテは借りてないのか(勝ち方教えろ!)。
追記、念のために申し添えておきますが、2019年のパ・リーグ覇者はもちろん埼玉西武ライオンズです。その強さは僕らがいちばんよく知っている。だから、よーく考えると、なぜ僕が友達を励ましてるのかわからないんですよ。こっちが励ましてもらいたいよー。
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