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貯金を盗まれ、火事で家を失い……

 山暮らしを始めて5年が過ぎる頃、蓄えていた現金を盗まれる事件が起こる。さらに、その6年後の秋、火事で家を失ってしまった。

 昭和36年、高度経済成長に沸く大阪へ出た。多くの農家がそうしたように、じいちゃんとばあちゃんも、耕すことをやめたのだ。

 大阪に出るとすぐに資格を取って、親戚の不動産会社に勤め始める。生活が安定してからの大阪の日々は、幸せが溢れていた。

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 しかし、65歳の時、じいちゃんは決意する――残りの人生は、夫婦で、あの山で送ろう。

草の上に足を投げ出してひと休みしていた寅夫じいちゃんをロングショットで撮影していると、どこからともなくフサコばあちゃんが歩み寄り、じいちゃんの横にちょこんと座った。 ©山口放送