美空ひばりと山口百恵 ある共通点
AI美空さんの振り付けのため、『あれから』を歌ったのは天童よしみさん。衣装をデザインしたのは森英恵さん。他にも大勢が美空さんを語り、協力した。完成した『あれから』を聴き、泣いていた。後援会の人も、思わず「ひばりちゃん」と声をかけてしまったと言って泣いていた。そういう美空さんだから、AIという最新科学が生きた。美空さん、AI。どちらが欠けても「新曲」は生まれなかった。
番組を見ながらもう一つ感じたのが、美空さんと百恵さんの共通点だ。何度か美空さんが歌うシーンが映ったが、どれも寂しそうに見え、百恵さんに重なった。キャピキャピしていない、という表現はもう若い人には通じないだろうか。同年代のアイドルと百恵さんは、そこが明らかに違った。憂いがあった。そこにひかれたのだと気づいたのは、やはり引退後だった。
なぜ世代を超えて、涙を流すような感情を起こさせるのか
美空さんの『あれから』には台詞が入る。技術的にはそこが一番の難関だったが、救ったのは息子の加藤和也さんが保存していたテープだった。小学生になり、地方公演に連れていけなくなった和也さんに、美空さんが残した読み聞かせのテープ。「かー君に、ママがお話をこれから読みます。これを聴きながら、おとなしく良い子で寝るんですよ」。そう語る、ゆっくりした声が流れた。
和也さんは、美空さんの弟の子どもだ。複雑な事情を背負った弟、その子どもを養子とし、濃密な愛情を捧げた美空さん。知っているのは、私が昭和の子だからだ。百恵さんは複雑な家庭に生まれたことを、著書『蒼い時』で明かした。引退直前のことだ。
冒頭、世代を超えて『あれから』が支持されていると書いた。泣いているという感想が多かった、とも。なぜ世代を超えて、そういう感情を起こさせるのかと考えると、美空さんの孤独さのようなものが関係しているのではないかと思う。とてつもなく歌がうまく、大勢の人の記憶に刻まれたスター。その人が、心の底に寂しさを抱えていた。だから、彼女の歌は人の気持ちのやわらかいところを刺激する。弱いところをそっと包み込む。気づけば、聴く人が泣いている。そういうことではないだろうか。