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令和に再評価されるべき幻の名作『巨神ゴーグ』に、作家・安彦良和の神髄あり

南の島を舞台にした少年とロボットの冒険譚……転じて、異星人と人類との全面戦争に

2019/10/17

 

安彦漫画の原点は『ゴーグ』にあり

 そこに後の『クルドの星』(’85年)や『我が名はネロ』(’98年)などの安彦漫画作品の“源流”を見出すことができる。
『クルドの星』の主人公・真名部ジローは日本人の父親とクルド人の母親との間に生まれたハーフ。ジローの母名義でクルド武装ゲリラのカシムが送った手紙を手に、そうとは知らずトルコのイスタンブールを訪れたジローは、政府軍とクルド人ゲリラの対立に巻き込まれ……というストーリーだが、“ハーフの主人公が謎の手紙に導かれ、未知の土地を来訪。戦争に巻き込まれつつ大冒険する”というプロットは『ゴーグ』のそれと同じ。辺境地クルディスタンへ逃れたジローは秘密の洞窟で、同じ“ジロー”の名を持つ少年と出会うが、まさにそれは悠宇とマノンの出逢いの再現に見えた。

『クルドの星(上)』より © 文藝春秋

 また『我が名はネロ』の主人公、ローマ帝国第5代皇帝ネロには、ヴィジュアルも含めて『ゴーグ』のロッド・バルボアの面影を見出せる。マザコンのネロに対しファザコン(実際にはグランドファザコン)のロッド。ユダヤ人奴隷・アクテを愛しながら母に猛反対されるネロに対しギャングのレイディとの愛を諦めるロッド。そのロッドは最後にはレイディとの愛を取り戻して生き延びるが、ネロは大いなる歴史と運命に逆らえず、何もかも失い孤独のうちに自害する……その姿は“真実の愛と人生に生きられなかったもうひとりのロッド”像が投影された。『ゴーグ』には漫画家/作家・安彦良和の“源泉”がある。

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『我が名はネロ 1』より © 文藝春秋

令和を迎えた今こそ再評価を待つ名作のひとつ

 NHK朝の連続テレビ小説『なつぞら』(’19年)でもカリカチュアライズされて描かれたが、世界的アニメーター・宮崎駿/高畑勲の『太陽の王子 ホルスの大冒険』(’68年)が公開当時は興行成績が振るわなかったように、また宮崎駿脚本・監督の『ルパン三世 カリオストロの城』(’79年)が、当時“失敗作”と揶揄されたように、『ゴーグ』も『ガンダム』までには至れず約2クール = 26話で幕を閉じ、劇場映画化もされなかった。だが後年、『ホルス』や『カリ城』が世界的に高い評価を受けた如く、今こそ作家・安彦良和の“本質”を知るためのうってつけのテキストとしてこの『巨神ゴーグ』を広く大勢の方々にご覧いただき、語り継いでいただきたい――と、声高に叫びたい。今がそのラストチャンスである。
 なお、劇中で船長がレイディを捕らえた際、胸も露わになるセクシーシーンがあるが、当時はビデオでそのシーンばかり繰り返し再生していた事実をここに告白する次第。そんな安彦作品一流の“サービスシーン”も満載なので、今観ても充分楽しめよう。

我が名はネロ 1 (文春デジタル漫画館)

安彦良和

文藝春秋

2018年3月1日 発売

クルドの星 上 (文春デジタル漫画館)

安彦良和

文藝春秋

2019年4月5日 発売

令和に再評価されるべき幻の名作『巨神ゴーグ』に、作家・安彦良和の神髄あり

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