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ノーベル賞すら通過点! “現代テクノロジー社会の神”吉野彰71歳が思い描く「未来の世界」

われわれは吉野氏の“球”を打ち返せるだろうか?

2019/10/11
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“神”が語った「リチウムイオン電池」開発の舞台裏

 大げさに言えば、現代テクノロジー社会の神である。私は、旭化成の応接室でそのご光臨を待った。しかし、そこに現れたのは、9日の記者会見をご覧になった方はおわかりのように、よく笑う好々爺である。

 リチウムイオン電池の開発で、グッドイナフらが見つけたプラス極に合うマイナス極の材料を、どう見つけたのかについて伺うと、「光るものを探せばよかった」とケタケタ笑った。「白川(英樹)先生が見つけたポリアセチレン(導電性ポリアセチレン。その発見により白川英樹氏は2000年ノーベル化学賞受賞)は銀色でしたよ。われわれが見つけたカーボン材料も金属光沢があってキラキラしていましたね」(吉野氏らは導電性ポリアセチレンをリチウムイオン電池のマイナス極に当初使ったが、実用化の過程でカーボン材料に切り替えた)。

吉野氏の著書『リチウムイオン電池物語』(シーエムシー出版)

 吉野氏が「面白い人」であることは、著書『リチウムイオン電池物語』(シーエムシー出版)の章タイトルを眺めるだけでもうかがえる。「第7章 三億円強奪! 有楽町スプレー銀行強盗事件の巻」「第8章 知らなかった部下の無謀行為」「第9章 新説開陳! 三種の鈍器論」......。

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 ちなみにこの本、2019年10月11日現在Amazon.co.jpで2万円を超える高値がついている(2年前に買っておいてよかった!)。

ノートパソコンやスマホの充電池として普及した「第一の波」

 とはいえ、もちろん単に面白いだけのお爺さんではない。

 吉野氏はリチウムイオン電池を取りまく「第二の大きな波が来ている」と語った。

 第一波は、IT化の波だった。その到来を象徴したのが1995年のMicrosoft社のOS「Windows95」の発売である。その翌年、私はNECのパソコンを買って電話線を通じてはじめてインターネットにダイヤルアップ接続した。当時はわざわざ大学の講義でインターネットのホームページの作り方を習ったものだ。

©iStock.com

 京セラ(現au)の格安ケータイを買ったのもこの頃で、そこに仕込まれていることを意識しなかったが、リチウムイオン電池はその後またたく間にノートパソコン、スマートフォンの充電池として一挙に普及した。

 吉野氏は、2010年以降リチウムイオン電池に関わる特許出願件数が急増していることから、IT化に続く、大きなうねりが来ていると感じ始めたという。