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「勝ちたいか!」「ついてこられるか?」 ラグビー映画『スクール・ウォーズ』に見る名指導者の条件

「One for All, All for One」だけじゃない

2019/10/14
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絶対外せない名言「One for All, All for One」

 山上がなにかと部員にかける言葉が「One for All, All for One=ひとりはみんなのために、みんなはひとりのために」。マンデラがスローガンとして掲げるのは「One Team, One Country=ひとつのチーム、ひとつの祖国」。まずはチームをビシッとまとめあげて彼らの姿を指標として見せることで、荒れた生徒たちと職務を放棄している教師、距離を開けたままの黒人と白人を互いに歩み寄らせ、バラバラになっている学校を、そして国をもひとつにしていくという、広い視野をもって指導にあたるのです。

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名指導者はおのずと人の心もガシッと掴んでしまう

 このように放つ言葉は大きいからといって、細やかな配慮も忘れないのが名指導者というもの。山上は「自分を見下しているヤツに心を開くヤツがどこにいるんや!」と元日本代表のプライドを捨て去って朝一番で校門に立ち、ラグビー部員を含めた生徒たちの顔をガン見しながら腹の底から声を出して「おはよう!」と挨拶、貧しくて弁当もままならない部員がいればスッと弁当を渡して去っていく。マンデラも選手ひとりひとりの名前を呼びながら握手を交わして叱咤激励。

山上修治のモデル・山口良治氏 ©文藝春秋

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 こんなことをされた者たちは「ラグビーだけをやっとけと言わないなんて……」「チーム15人の名前をわざわざ覚えているなんて……」と選手である前にひとりの人間として接してくれる監督と大統領にグッときてしまうのです。そう、名指導者はおのずと人の心もガシッと掴んでしまうものなのです。