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猫と一緒に屋根で過ごす

 台風一過となった翌13日、立花さんが荒川河川敷に戻ってくると、小屋が腰の高さまで浸水していた。

「堤防のほうから見ると、本流のほうはものすごい勢いで流れていました。あの時が川の勢いは最高潮だったかもしれない」

 立花さんは普段、空き缶拾いと月に数日の日雇い労働をこなし、生活を続けている。生活保護は受けていない。だが、浸水の影響で、空き缶拾いにも行けない。とりあえずは小屋の上に避難した。

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 小屋の広さは2メートル四方で、高さは1.5メートルほど。台風襲来時を考えて、ベニヤ板を何重にも張り合わせて低く作っているため、少々の風圧ではびくともしない。今回の台風襲来時にも、その頑丈ぶりを発揮した。

 ずぶ濡れになって小屋に入った立花さんは、浸水を免れ、中に置いてあったカセット式ガスコンロ、鍋などの調理器具、ペットボトルの水、即席ラーメン、コッペパン、インスタント米など食料2日分を取り出し、小屋の上まで運んだ。

「水がたまっているんだからさあ、何もやることができない。とりあえず必要な物を上にあげ、寝るために乾いたシートを敷きました」

 立花さんは猫を2匹飼っているため、その餌も一緒に用意した。あの強風にもかかわらず、無事だった。

 

「水が上がったから1匹は高い所へ逃げていました。もう1匹は、小屋の中に浮かんでいた布団の上にいました」

 屋根に上った立花さんは、正午ごろから猫たちとともにそこで過ごした。

「すぐ横になって寝ちゃったんだよ。でも夜はあまり熟睡できなかったねえ。だいぶ水が引いてきたのがわかったけど、どうせ降りてきたって寝るところないんだから。下は水浸しで何もかもびしょ濡れだからね。2日ぐらいはかかると思ってたからさあ」

「自分勝手にやってきたから、行政の世話にはなりたくない」

 翌朝午前5時ごろ目覚めると、想定していたより早く水が引いていた。小屋の床部分は水浸しになっていたため、修復しなければならない。自転車に乗って付近のゴミ置き場から段ボールを集め、ついでに空き缶も拾った。小屋の中で水浸しになった日用品や新聞紙などをすべて引っ張り出し、そこに拾ってきた段ボールを敷き、ブルーシートをかぶせた。まだ水浸しになっている衣類や毛布などがあるため、天候に応じて少しずつ乾かしていくつもりだ。

 

「野宿していれば色々なことはあるよね。このくらいのことはしゃあない。まだこういう小屋があるだけましなほう。ない人はもっと大変だよ」

 長年路上生活を経験しているからか、立花さんの語り口は実に平然としている。たとえば取材の最中に私が「何かお手伝いしますよ」と伝えても、「いや、大丈夫です」とまず断られる。生活保護を受給していない理由も「今まで自分勝手にやってきたから、行政の世話にはなりたくない」と言い、とにかく他人に迷惑を掛けたくないオーラを全開にしてくるのだ。

 そんな立花さんは翌日から早速、空き缶拾いに行くのだという。

「行かなきゃ飯食えない。体も動かさないとね。アルミ缶拾いでも多少は動いていればお金にもなるし」

 立花さんは今日も早朝から自転車を漕いでいるのだった。

 

写真=水谷竹秀