国際フェンシング連盟へのプレゼンは失敗に……
もちろん、こういったテクノロジーを前に進めていくには、莫大な予算がかかります。また、国内の一部大会でだけ、あるいは五輪、世界選手権でだけ実装していく、というのは広がりがない。より多くの人に届かなければ、それはいいテクノロジーとはいえません。
そこで僕は、このFVを、国際フェンシング連盟(FIE)のツールとして活用してもらおう、と考えました。
2018年2月、FIEの理事会で僕は、映像をFIE向けに編集し直してプレゼンテーションを行い、連盟正式の事業としての投資をお願いしたのです。
しかしながら、返ってきたのは厳しい答えでした。
当然といえば当然です。フェンシングのためを思って取り組んでいる事業であっても、投資するには、ビジネスとして成立させなければならないからです。
ロシアでも有数の大富豪、FIEのウスマノフ会長
私の中には、こういった取り組みはフェンシングのオリンピックスポーツとしての地位を引き上げるために必ず役立つし、資金はその活動の中でうまく回収することができるのではないか、という目論見がありました。
現在、IOCはオリンピックスポーツをその重要度、規模に応じてランク分けをしています。陸上、水泳、体操はAランクで、サッカー、テニスはBランク。柔道やアーチェリーなどはCランク。実はランクに応じてIOCからの分配金が増えて行くのですが、フェンシングは現在Dランクです。このランクをCにあげることができれば、FVにかかる資金も十分回収することができるはず。しかし……実際にそのプロセスや、細かな数字まで理事会に上げることは難しかった。結果として決裁は下りませんでした。
とはいえ、FIEのアリシェル・ウスマノフ会長との議論は、いつも本当に楽しくチャレンジングなものです。ウスマノフ会長はロシアでも有数の大富豪で、一筋縄ではいかない大人物です。あのときは説得できなかったけれど、彼の意見に食い下がっていくと、会議の後で「俺は座っているだけのやつは認めない。どんどん議論をしよう。いくらか金を集めて、モスクワに来い。そうしたらなんとかするから」と声をかけてくれたりします。
FIEの副会長となり、東京オリンピックまで1年を切った今も、協議は続いています。FVが東京オリンピックで実装されるチャンスは、十分にある、と感じています。