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“全日本選手権チケットを2日で完売”させた太田雄貴が語るフェンシングの問題点と解決策

『CHANGE 僕たちは変われる 日本フェンシング協会が実行した変革のための25のアイデア』

2019/11/01

 2017年夏、31歳で日本フェンシング協会の会長に就任した太田雄貴さんが、マイナースポーツから脱却するために様々な施策を実行している。彼を突き動かすのはオリンピックで日本がメダルを獲得した直後の全日本フェンシング選手権での閑散とした観客席にあった。――彼と仲間たちの2年間の奮闘記『CHANGE 僕たちは変われる』が発売中。今回は本書の第4章「観るスポーツとして」全文を公開。

©YASUNARI KIKUMA (symphonic)

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「剣先の動きが速すぎて、勝負の結果がよくわからない」

 このあたりで、協会が取り組んでいる最先端のテクノロジーについて、整理をしておきましょう。

「剣先の動きが速すぎて、どちらが勝ったのか、見ていてよくわからない」――。

 マーケティング委員会での指摘を待つまでもなく、この問題は、フェンシングの「観るスポーツ」としての発展を考えたときに、どうしても改善しなければならないポイントでした。

 この長年の課題を、もしかしたらテクノロジーが解決してくれるのではないか――その光明は、東京五輪の招致活動でDentsu Lab Tokyoの菅野薫さんと、テクノロジーを駆使したアーティスト集団・ライゾマティクスの真鍋大度さんと出会ったことでもたらされました。

 彼らは、IOC総会での僕のプレゼンテーションの時に流される、フェンシングの映像を担当してくださいました。サーベルを持って対面した2選手が高速で突き合う、その剣先や選手の動きをモーションキャプチャーやAR(拡張現実)技術を駆使してトラッキングし、軌跡を緑や赤の光で可視化した近未来的な映像です。

 

テクノロジーを駆使したオリンピックへ

 この映像を見た瞬間、感動とともに、「これを将来、実際のフェンシングの試合で実装することができたら……」という思いが生まれました。そこで協会の自己資金を投入して、本格的に始動したのが「フェンシング・ビジュアライズド(Fencing Visualized、以下FVと略)」というプロジェクトです。

 実際、東京五輪の招致が決まったIOC総会で、僕たち日本チームは「テクノロジーを駆使した最高のオリンピックにする」と宣言しています。できれば誰もが驚くような形でテクノロジーを活用し、より感動的なスポーツ観戦体験を観客に提供することができたらと思っていますが、いまのところ、他の競技でイノベーティブなテクノロジーが使用される、という話は聞いていません。ならば僕たちが! ということで、野心を持って少しずつですが開発を進めています。

©iStock.com

 これまでに触れてきた大会でも、FVの映像は随所に活用してきました。中でも、先程触れた2018年の全日本選手権では、実際の試合の剣先の軌跡を、ほぼオンタイムでトレースして大型ディスプレイに表示したいと考え、準備をしていました。技術チームは本番のギリギリのところまで努力を重ねてくださいましたが、実際はそこまではたどり着けず、男子フルーレの選手によるデモンストレーションをお見せするにとどまりました。でも、データを集めAIに機械学習させることで「試合の生映像にビジュアライズドを載せる」ための道筋は見えてきた。少なくとも、自分たちがやってきた方向性が間違いでないと確認できたことは収穫でした。現在もエペやサーブルにも応用していくべく、議論や実証を重ねています。データを集積していく中で、ほぼオンタイムでの実装ができるはずです。