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マラソン札幌開催へ変更という“妙な東京五輪” 招致で本当に得をしたのは誰だ?

問題の根っこはどこにあるのか

2019/10/25
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「神宮外苑地区のスポーツクラスター」計画とは何か?

 もともと神宮外苑の再開発をド派手にやりたい意向があちこちにあった。その「悲願」を実現するために東京五輪招致は必要だったのではないか。

 2015年7月7日におこなわれた「有識者会議」を伝える記事を抜粋する。

《「財源は皆で確保しよう。『あいつが悪い』『こいつが悪い』という話をするんじゃなくて」。日本スポーツ振興センター(JSC)が新国立競技場の整備計画を示した7日の有識者会議。スポーツ議連の衆院議員、馳浩(54)の発言に東京都幹部の顔がこわばる。》(日本経済新聞・2015年7月15日)

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馳浩氏 ©文藝春秋

 新競技場の整備費のうち都の負担分について当時の舛添都知事が「都民を納得させる理由が必要だ」と発言すると、「知事、合わせ技一本ですよ」と馳浩議員が話しかけた。そう伝えるのはこちらの記事。

《馳氏が引き合いに出したのは、都がJSCなどと4月に覚書を交わした「神宮外苑地区のスポーツクラスター(集積地)」計画。「新国立競技場単体ではなく、周辺の新宿区、渋谷区、港区の神宮外苑を一体で考えないといけない。スポーツ文化の発信エリアとして再開発すべきだ」。有識者会議でもこう訴えた。》(朝日・2015年7月9日)

 都への説得が五輪の素晴らしさではなく神宮再開発の話になっていることに注目したい。ちなみに馳議員は「森喜朗の秘蔵っ子」である。

馳議員に、アスリートファーストについて尋ねた

 実は私は「文春オンライン」で馳議員と2年前に対談し、アスリートファーストについて尋ねたことがある。抜粋する。

鹿島  2013年の橋本聖子さんとの対談では「アスリートファーストで、コンパクトオリンピックであるべきだ」とおっしゃっています。しかし、年々暑くなっている真夏の東京開催で大丈夫ですか。コンパクトさのほうも当初の構想とはだいぶかけ離れているようですが。

 それについてはちょっと厳しい言い方になりますが、アスリートに与えられた条件は全員同じ。その中で健康を害さないように最善の努力をし、最強最速、最も美しい演技を目指すのは、アスリートの責務です。もちろん暑さ、湿度対策、そしてテロ対策というアスリートが安心して競技にのぞめる重要ファクターの整備は組織委員会の責任ですが。

©文藝春秋

 当初はアスリートファーストを主張していた馳議員だが、この対談では与えられた条件は全員同じ、とまで変化していた。

 暑くてもなんでもいいから早く五輪をやっちまおう。そんな気配は大会組織委員会の森喜朗会長にも窺える。昨年、日刊スポーツがおこなった単独インタビューで森会長は次の発言をしている。

「この暑さでやれるという確信を得ないといけない。ある意味、五輪関係者にとってはチャンスで、本当に大丈夫か、どう暑さに打ち勝つか、何の問題もなくやれたかを試すには、こんな機会はない」(2018年7月24日)

森喜朗氏 ©JMPA

 五輪関係者にとってはチャンスだという。しかし今回の五輪が本当にチャンスなのは誰なのか。