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 佐藤監督が八村の家族愛を最も強く感じたのは、八村が3年生の時、バスケ部で行なった卒業を祝う会での出来事だった。

「彼は自分の母親にも、妹にもありがとうと言って、本当に強く抱き合うんですよ。部活は苦しかったけど、それを乗り越えられたのは、家族を思っていたからだと。私なんか、子どもが大きくなってからハグなんてしたことないですけどね。彼は温かい家庭の中で育ってきたから、相手を思いやる心が育っていて、そういう気持ちがバスケットにも影響していました」

「塁、おれだってハーフだぞ」

 家族と離れて暮らし、高校生活を送ったことも、自分がそれまで家族に支えられていたと、深く意識する契機になったのかも知れない。

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 八村が家族愛を強くしたきっかけに、肌の色を巡る嫌な思い出があることを察して、佐藤監督はそこに踏み込んでいいのか悩みながらも話をしたことがある。

「塁、おれだってハーフだぞ。おれはお父さんとお母さんのハーフなんだ。塁も、お母さんから優しくて素直な性格をもらったじゃないか。お父さんからは素晴らしい運動能力と体格をもらったじゃないか。それに誇りを持ってほしい」

 人が持っているルーツとは、人種や民族的なルーツだけではない。父と母から譲り受けたもの、そして育ってきた環境で学んだこと、それこそ八村が「自分は何者か」という問いに対して、たどり着いた答えだったのではないか。

ワシントン・ウィザーズから1巡目指名を受けて入団した

一貫して、「楽しい」と屈託のない笑顔で語る

 八村は開幕戦に先発で出場することが決まった。初めて体験する夢の舞台は、決して楽ではないはずだ。フィジカルコンタクトの激しさはもちろん、ロースター入りをかけたふるい落としも熾烈。スポンサー契約に、NBAからの期待、当然精神的な負担もあるだろう。

 しかし、八村に話を聴くと、一貫して、「楽しい」と屈託のない笑顔で語る。

「僕みたいな人は本当に世の中にいないんです。ベナンと日本という人種的にもそうですけど、性格もやっぱり自分みたいな人はいないです。ユニークであることを誇りに思います」

 ロングインタビューでこう言葉にしていた八村は、自分が自分らしくいられる舞台に立ったことをNBAのコート上でも、楽しんでいるのではないか。

 そう考えると、7月に目にした少年たちへの行動は、まさに八村の「自分らしさ」を体現したものだったのだろう。本人はそこまで深く考えていないだろうが、下のきょうだいを放っておけない長男のように、「いろんな人にありがとう」と学んだときのように、八村が今も振る舞っているように感じられてきた。

INFORMATION

NHKスペシャル「NBAプレーヤー 八村塁 ~“世界最高峰”への軌跡~」

放送日:10月27日(日)午後9時~(NHK総合)
再放送:10月30日(水)午前0時35分~(NHK総合、火曜深夜)

https://sports.nhk.or.jp/dream/special/hachimura-rui/