新刊は極悪人揃いのスピンオフ『終りなき夜に生れつく』
――たとえば『夜のピクニック』(04年刊/のち新潮文庫)も、夜歩く間だけの話ですよね。そういう限られた時間の中の、限られた空間という状況には惹かれますか。
恩田 そういうの、すごく好きです。読むのも書くのも好きですね。もちろん本には始まりと終わりがあるので時系列的にも制限があるし、さらに空間も限定されているなどと、制約があったほうが書きやすいというか、面白いというか。始めと終わりがはっきりしているものがいいのかなとは思います。
――これを書きながら、いろんな連載も並行して書かれていたとか。
恩田 そうなんです。超長期連載になっているものがいっぱいあって。これの連載が終わったことで、他社の編集者は希望を持ったみたいです。いつかは終わるんだって(笑)。
――それにしても、一体いくつ連載を抱えているんですか。
恩田 いや、数えないようにしています(笑)。月刊だったり季刊だったりいろいろですし。
――昨年の暮れには講談社の少年少女向けのミステリーランドのシリーズからは『七月に流れる花』『八月は冷たい城』が出ましたね。少年少女が限られた空間の中で過ごすという設定で、ダークファンタジーっぽいテイストだし、恩田さんの好きな世界だなと思ったんです。
恩田 そうなんです。考えてみたらずっと同じことをやっていますよね。これは同じ状況の男の子版と女の子版を書こうと思ったんです。
――私は『七月に流れる花』のほうを先に読んだんですけれど…。
恩田 それが正しいです。その順番に読んでほしいんです。「七月」から読むように、あちこちで言っています。この2冊は酒井駒子さんの絵も素晴らしいんです。駒子さんの絵は甘さと暗さのバランスが素晴らしい。
――この記事が出る頃にも新刊が続々と出ているそうですが。
恩田 はい、2月頭には、KADOKAWAさんから、雑誌「怪」に連載していた『失われた地図』が出ています。なにしろ「怪」に連載していたものですから、伝奇ものになりますね。日本の各地に「裂け目」が現れるという話。2月下旬には『終りなき夜に生れつく』(文藝春秋)が出て、3月下旬刊行の『錆びた太陽』(朝日新聞出版)は「週刊朝日」に連載していたもので、これは多少笑いも入っているんですけれど、いっぱい原発事故が起きて住めるところが少なくなってしまった日本、という世界の話なんです。
――2月20日に刊行した『終りなき夜に生れつく』は『夜の底は柔らかな幻』(13年刊/のち文春文庫)のスピンオフだそうですね。『夜の底~』は土佐を彷彿させる、国家権力の及ばない途鎖国に、在色者と呼ばれる特殊能力を持つ人々が集まってきて、それぞれ山奥を目指していく。最後に大スペクタクルが広がりますが、まさかあの話のスピンオフがあるとは。
恩田 極悪人揃いの話の、まさかのスピンオフ(笑)。書き始めたのは結構前なので、どうしてスピンオフを書こうと思ったのか憶えていないんです。でも私はこの話のキャラクターはみんな気に入っていたので、また出してみたいなというのはありました。勇司も好きなキャラクターだし、葛城も極悪っぷりが好きでしたし(笑)。学生時代にはこういうことがあった、とか、彼らの過去の話などを書いています。
――ごく日常的な風景のすぐそばに何か異質なものがあるという世界観ってやっぱり恩田さんの得意とするところだし、やっぱりいいですよね。『夜の底は柔らかな幻』はコンラッドの『闇の奥』へのオマージュだったそうですね。
恩田 『闇の奥』と、それを原作とした映画『地獄の黙示録』ですね。でもタイトルの『夜の底は柔らかな幻』は久保田早紀の曲の題名です。今回の『終りなき夜に生れつく』もクリスティーの小説のタイトルで、作品も好きだしタイトルも好きだったので、漢字の送り仮名も同じにしたんです。
――最初の頃、恩田さんは必ず自作について、オマージュとなる先行作品を挙げてらっしゃいましたよね。すべての物語はもうすでに書かれてあって、オリジナルはないから、と。最近もそうですか。
恩田 ええ。もうオリジナルなものはないとはいまだに思いますが、最近はさすがにオマージュするのが尽きてきたというか、明確なオマージュがあるものはなくなってきましたね。『蜜蜂と遠雷』も特にないですから。
――そもそも、それだけたくさんの物語に触れてきたということですよね。
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※「『ジャンプ』『サンデー』『マガジン』で育ったがゆえの刷り込みとは?───恩田陸(後編)」に続く