1ページ目から読む
2/3ページ目

昨年までとは明らかに異なる千賀の成長した姿

 1戦ごとに振り返ってみよう。初戦の千賀は、ただ1試合を抑えるだけでなく、坂本や丸のインコースにツーシームやカットボールを連投して、強烈に意識をもたせ、翌戦以降にも影響を与える真のエースの投球を果たした。昨年までとは明らかに異なる成長した姿を見せてくれた。その上で、最速146キロの異次元のスピードを持ち、中4日で次戦の登板も可能なアンダースローの高橋礼を2戦目にぶつけ、途中までノーヒットに抑え込んだ。オーバースローの豪腕、千賀から目先が変わって対処がしにくかったはずである。

 3戦目以降は「第1先発」とも言えるバンデンハークや和田毅の後に、石川柊太やスアレスと言った「第2先発」を用意して、終盤の勝ちパターン継投に繋ぐ役割を果たした。スアレスは捕まったものの、「第2先発」で出てくる投手が159キロを計測するなど層の厚さは桁違いだった。もし5戦目があったとしても、負けが混んでいたら千賀を中4日で先発させるプランも持ちつつ、おそらく武田翔太を先発させ、6戦目に中6日で、万全の状態で千賀を持ってきただろう。個人の投球内容も、陣容も起用法もあらゆるリスク管理がなされており、完璧だった。

 このクラスの力を持つ投手は、巨人には山口俊、菅野、デラロサと澤村しかいなかった。

ADVERTISEMENT

千賀滉大 ©文藝春秋

 そうした投手陣をリードで引っ張ったのがキャッチャーの甲斐拓也である。昨年は“甲斐キャノン”で6連続で盗塁を阻止してMVPに輝いたが、ポストシーズンの豊富な経験を生かしてシリーズ全体を考えた配球で完璧に抑え込んだ。丸や坂本へのインコース攻めの他に、岡本には徹底的にカーブを繰り返すなど意識付けが抜群だった。経験不足が見えた巨人の捕手・大城とはこれまた対照的であった。

育成出身が活躍したソフトバンクと若手がミスを繰り返した巨人

 ソフトバンクは育成出身選手の活躍も目立った。千賀と甲斐のバッテリーに加えて、1番打者として積極的な姿勢で貢献した牧原大成、最後に走塁ミスもあったものの、その走力で巨人を追い込んだ代走の周東佑京、ロングリリーフをこなした石川柊太、リリーフで主に8回を担ったモイネロが育成出身である。巨人も3軍制を導入して若手が伸びては来ているが、その年季と質が違う。

 巨人は経験の少ない山本や若林らがミスを繰り返した。このレベルの試合では、薄いところから水が漏れて決壊していくように、穴があればそこから崩壊していく。交流戦で甲斐に2アウトからのセーフティスクイズを決められた岡本も、サードでは緩慢な守備が目立ち、シリーズでも穴を付かれた。ソフトバンクの圧倒的な圧力の前に、経験の少ない若手が萎縮しミスを繰り返したのも致し方なかったのだろう。代走要員の増田に走塁ミスが出るなど、効果的な走塁が多かったソフトバンクとは対象的だった。

 経験やメンタルでも圧倒的な差があった。