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ベテラン長谷川勇也の素晴らしい姿勢

 シーズンでは出場機会の少なかったベテランの長谷川勇也は、CSから代打で神がかり的な打撃を続けた。腐らずに準備を怠らない姿勢が素晴らしい。シーズンでは体調不良や故障に苦しんだ「2番打者」でもあり「5番打者」でもある中村晃は、貴重な場面でそのコンタクト能力を活かした打撃で貢献し、川島慶三や明石といったベテランも、出番が来れば確実に仕事を果たす。福田秀平は外野とファースト、代走や守備固めと、どこで出てきてもハイレベルなプレーを披露する。ムードメーカーでもある松田宣浩は、長打力だけでなく守備や走塁でも貢献し、CS男の内川は研ぎ澄まされた集中力で、ここぞの場面で打ちまくった。そんな彼らが8番に打順を下げられたり代打を出されたり、スタメン落ちをしても腐らずに全力でプレーする。ソフトバンクの真の強さの源はここにあるといっても過言ではない。第2捕手の高谷は毎試合、終盤の厳しい場面で起用され、抜群の観察眼と経験、信頼感でリードを守りきった。

長谷川勇也 ©文藝春秋

 これほど圧倒的な差がある戦いでは、原監督のバクチが当たらないと対等には戦えない。しかし采配でも、工藤監督が上回り続けた。ただの「バクチ」ではなく、経験やデータ分析、勘による「確率の高いバクチ」で、能力と経験の豊富な選手たちがそれに応えて成功させ続けた。

 原監督の采配は、いまいち冴えがなかった。代打で陽岱鋼を使えばアウトコースのカットボールをホームランに出来る可能性があった場面でも起用することはなかったし、ミスをした山本に挽回の機会を与えようとしたのか、また起用したことで痛恨のミスに繋がってしまう場面もあった。下位打線で一発を狙えるビヤヌエバの起用も考えても良かったような気はする。

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工藤公康監督 ©文藝春秋

 圧倒的なデータ量と分析力、日頃からの準備を怠らない工藤監督にとっては、予告先発も吉と出た。シリーズ前の監督会議で「初戦の先発は千賀滉大」と突然発表して、予告先発制を採用せざるを得ないようにしかけたのは、豊富な戦力を誇り、様々な選択肢をとることが出来るチームあってのことだ。

 現役時代からシリーズを知り尽くし、勝ち運を持つ工藤監督が、百戦錬磨の原監督をも上回り、ソフトバンクにとっては完璧なシリーズとなった。ただ一つ問題があったとすれば、レベルの高い野球が好きな人以外には、あまり響かないシリーズとなってしまったことだ。完璧すぎる一方的な展開の野球は、一般受けしないのである。