かつて藤木組と称して戦前から港湾の荷役業を束ねてきた社屋には、ある種独特の重厚感が漂う。父親のあとを継いだ藤木企業の藤木幸夫会長は、菅義偉官房長官や二階俊博自民党幹事長をはじめ政官界の実力者と袂を連ね、御齢89にしてなお港に睨みを利かす。
その「ハマのドン」に久しぶりに会った。さる8月22日、林文子横浜市長が横浜・山下埠頭へのIR(統合型リゾート)施設の誘致を決めた。「カジノ構想」に真っ向から反対している藤木氏にその真意を聞くためである。
藤木 かつて私は菅さんや二階さんに、カジノ計画は賛成だと宣言してきました。『どうせ港でやるのなら、俺が音頭をとるよ』と。二階さんからは『藤木さんは横浜でやって。俺は和歌山でやるから』と言われ、一緒にやろうという話になっていた。
でも、それは間違いだったと考えを改めました。その直接のきっかけは2018年3月、犯罪研究をしている日本社会病理学会の横山実会長や公益社団法人『ギャンブル依存症問題を考える会』の田中紀子会長の話を聞き、ギャンブル依存症の怖さを知ってからです。
官邸からのハードパワー
藤木氏は、林市長の誘致表明は唐突な宗旨替えではなく、横浜市の幹部たちが準備を整えていたと指摘する。そして、そこには横浜が地元の菅官房長官が仕切る官邸からの「ハードパワー」も働いたと藤木氏は見ている。
藤木 彼女(林市長)は表向き白紙と言っていた以上、動けません。その一方の水面下で、副市長と担当の局長、部長たち横浜市の幹部4人が、着々とカジノ計画を進めていました。シナリオは全部できていた。それは官邸からの指示だと考えるほかありません。私なりに林さんの様子を傍から見ていて、官邸からのハードパワーは手にとるようにわかりました。
はっきり言って副市長たちは菅官房長官の了解があってはじめて就任できた。私はそれがわかっているからこそ副市長にも『この問題は忖度なんかで片づける話ではないんだよ』と事前に諭していたんですけど、彼は『しがらみがありますのでご理解を』と目を伏せるばかりでした。
あれほどしょっちゅう会っていた菅さんと最後に会ったのは2年前です。その代わり、彼の秘書だった市会議員がたびたび訪ねてきていました。だいたい、カジノは横浜の問題なのですから、横浜で決めればいい。