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『ジェミニマン』『アラジン』に見るウィル・スミス51歳の“葛藤” 「息子との共演2作目」でスター像が揺らいだ理由

青くなったり、2人になったり……

2019/10/27
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「強くてカッコいい」像で映画界を駆け抜けたウィル・スミス

 映画におけるウィル・スミスは、早くから“強くてカッコいい俺様”感を異常なまでに打ち出してきたと思える。『バッドボーイズ』(95)で演じたのは、銃を撃てば百発百中の超敏腕なうえにプレイボーイ、飛ばす愛車はポルシェ964のラグジュアリー刑事。『インデペンデンス・デイ』(96)では、宇宙人の乗る攻撃機を撃ち落とすだけでは満足できず、わざわざ撃墜機に駆け寄ってハッチから飛び出してきた宇宙人を素手でブン殴る念の入ったタフネスぶりを見せる戦闘機パイロット。

 世界的ブレイクを果たすきっかけとなった『メン・イン・ブラック』(97)では宇宙人監視組織MIBのエージェントとして地球を守り、『エネミー・オブ・アメリカ』(98)では米国家安全保障局NSAの高官が進める陰謀を叩き、『ワイルド・ワイルド・ウエスト』(99)では西部開拓時代のシークレットサービスとなって南軍残党の陰謀を打ち砕いた。『ハートブレイク・タウン』(92)での映画デビューからわずか7年、アメリカと地球をこれだけ救った俳優はそうはいない。

『メン・イン・ブラック』 ©Columbia Pictures/getty

 そんなウィルが“強くてカッコいい俺様”の大先輩ともいうべきモハメド・アリ役に挑んだのが『ALI アリ』(01)だ。伝説のボクサーにして、若者を戦場に送り込む徴兵制や人種への偏見に果敢に立ち向かったヒーロー。しかもそれまで彼を演じた黒人俳優はおらず、77年に放たれた伝記映画『アリ/ザ・グレーテスト』では“俺を演じられるのは俺だけだ”とばかりにアリ本人がアリに扮している。まさに黒人にとってはゴッド、良い意味でアンタッチャブルな存在。

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モハメド・アリとウィル・スミス ©Gregorio Binuya/getty

 だが、この頃のウィルは主演作が軒並みヒット、「俺は偉大だ」という名台詞を吐いたアリを演じられるのは俺だけだと思うようになったと想像するに難くない。結果、アカデミー主演男優賞にノミネートされて“演技もイケる俺様”がプラスされた。ただし、アリは「俺ほど偉大になると、謙虚になるのは難しい」とも語ってもいるわけだが……。