ここのところ、ウィル・スミスにザワザワしてしかたがない。
それが始まったのは、6月に公開されて日本での興収120億円超の大ヒットを記録した『アラジン』(19)を観た時から。ランプの魔人ジーニーに扮し、辮髪(べんぱつ)をブランブランと揺らしながら猛スピードでチョコマカと動き回っておどけまくり、ニタニタと笑いながら女装姿まで見せる“青いウィル・スミス”……。“強くてカッコいい俺様”なノリでブイブイいわせていたスターである、いつものウィルとはかけ離れた姿に呆気に取られるあまり、ストーリーは頭に入らず、いいところで流れる名曲「ホール・ニュー・ワールド」も耳に入ってこなかった。
いったい、ウィルはどうしてしまったのだろう? そこへさらに放たれたのが、公開中の『ジェミニマン』(19)である。
23歳の自分自身“ジュニア”と激突するウィル・スミス51歳
ストーリーは現在51歳のウィル・スミス演じる凄腕の暗殺者ヘンリーが、クローン技術によって生み出された23歳の自分自身“ジュニア”と激突するといったもの。
とはいえ、ウィルの映画だけに自己と見つめ合ってどうこうする内省的で小難しい作品ではない。従来の映画におけるフレーム数=1秒間24コマの5倍にあたる1秒120コマで撮影を敢行し、その映像を1秒60コマの3D映像に仕上げる“3D+in HFR(ハイ・フレーム・レート)”がもたらす、劇中に飛び込んだかのようなヴァーチャルリアリティ的没入感は衝撃の一言だし、そのなかで繰り広げられるド派手な銃撃戦やバイクを自在に操って戦うバイク+カンフー“バイフー”を用いたチェイスにも手に汗を握るし、100%CG製とは思えない“ジュニア”の生々しい質感には圧倒されるしかない。
それよりも驚いたのは、まさに誰もが楽しめるエンタテインメントに仕上げつつも現在のウィルが抱く葛藤と決意が垣間見える “私映画”にもなっている点だ。
しかし、なんだってここにきてウィルは若き自分と向き合い、戦おうとするのか? また、『アラジン』で“青いウィル・スミス”ジーニーになってみせたのか? スターとしての彼の歩みを振り返りながら考えてみたい。