まずは誰かに真実を伝えておきたい

 一方で、そのためにも、いつかどこかで、自分の生きて来た道、真実の部分を残しておく必要があるだろうなと、なんとなく頭の片隅では考えていたのです。過去にもメディアを通じて、自分の半生を振り返る機会は幾度かありましたが、我ながら決して平坦な道を歩んできたわけではないですし、全てを包み隠さず打ち明けるとなると、相手は誰でもよいわけではありません。

 そんな中、私の半生を連載にできないかと提案してくれたのが、個人的な付き合いのある「週刊文春」さんでした。これまでも折に触れて取材をしていただいたご縁があり、気心が知れている安心感もありました。連載を快諾したのは、公表を前提としてよりも、まずは誰かに真実を伝えておきたい、書き留めておいていただきたいという思いの方が強かったような気もします。

©︎文藝春秋

縁あってかたちになった私の“履歴書”

 本書は、その連載を一冊にまとめたものです。加筆してもらった箇所も多くあります。私がずっと内に秘めてきた事実、心境を、ここまで詳らかに語ったことはありません。相手の立場があり、伏せなければならないことも多々ありましたが、今の私が発せられる限りの言葉が、ここに記載されています。自分がどんな生き方をしてきたのか、いま一度、見つめ直す貴重な契機になりましたし、私自身が外ではどのように映っていたのかを知る、よい機会にもなりました。

ADVERTISEMENT

 この先は、どんな出来事が待っているのでしょうか。自分の人生って、案外、自分が一番分かっていないものなのかもしれませんね。今はテレビ出演などのお誘いも多くいただきますが、これがずっと続くとは思っていませんし、貴乃花道場の活動を続けつつ、将来の自分がどういった職業に落ち着いていくのかは、全く未知の領域です。

 本書は、人生の大きな節目に、縁あってかたちになった私の“履歴書”でもあります。ご興味があれば、手に取っていただけると幸いです。

令和元年9月 貴乃花光司

◆◆◆

【出版に寄せて――貴乃花からのメッセージ】

謹啓

 私はこの本が出版される約一年前に家業を辞めることになったが、心と胸のうちには、これまで支えられ、恩恵を受けてきた人達への感謝の念が、忘れることなく刻まれている。中でも、この本を書いてくれたのは、これからも一緒に歩幅を合わせてやっていこうと誓い合える、長年の親友と呼べる存在。出版を迎えるにあたり、これまでの人生を間違えていないと思わせてくれた。

 彼には常々、こう伝え、お願いしてきた。「私はいつ尽き果てるかも分からないから、こんな奴もいたと、いつか後の世に遺してほしい」と。彼には、私の人生の概ねを聞いてもらってきた。本に収容できたのは、全体の十分の一ほどかもしれない。それくらい多くを語り合った。私を理解してくれる数少ない親友であるがゆえに、どう書くか、心を砕いたこともあっただろう。しかし、私の来た道のりを、凝縮して一冊にまとめ上げてくれた。

 私の相撲道は続く。彼との次なる約束もある。それらが全て実現できたら、私の役目は終わる。

 最後に、それまで土俵の中ことは任せてくれ!

敬白
貴乃花光司

◆◆◆

【プロフィール】

●貴乃花光司(たかのはな こうじ)

1972年8月12日東京都生まれ。88年藤島部屋に入門。92年幕内優勝を果たす。その後、兄の若乃花と「若貴フィーバー」を巻き起こす。94年に第65代横綱に昇進。2003年に現役引退。幕内優勝22回、殊勲賞4回、敢闘賞2回、技能賞3回など数々の記録を残す。04年に「貴乃花部屋」の親方に。10年に日本相撲協会理事に就任。18年に同協会を退職。

●石垣篤志(いしがき あつし)

1974年石川県生まれ。大学卒業後、テレビ番組制作会社、フリーライター、「週刊実話」記者を経て、2001年から「週刊文春」記者。

貴乃花 我が相撲道

石垣 篤志

文藝春秋

2019年10月28日 発売