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貴乃花、半年間の密着インタビューで明かした半生「今の私が発せられる限りの言葉がここにある」

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葛藤がなかったといえば、ウソになる

 私が長らく身を置いてきたのは、大相撲という勝負師の世界でした。皆が強くなりたい一心で飛び込んできて、猛稽古を積み、それでも関取以上になれるのは、ほんの一握り。ですが、人生という長いスパンで考えた時、一定の地位に到達することだけが成功ではありません。強くなり、地位が上がれば、それに比例して大変な日常が待っています。私の場合、決して望んだわけではないのですが、現役時代、師匠時代を通して、何かと公私にわたって話題にされることの多い人生でした。

現役時代の貴乃花 ©︎文藝春秋

 物事には、必ずそこに至る背景や事情が、前段階として存在するものです。話題性のある経過だけがクローズアップされた時、「本当はこうなんです」と、私は自ら発信する場面をあえて作らずに生きてきました。身の回りで起きている事象が切り取られて語られることについて、葛藤がなかったといえば、ウソになります。ただ、報道する側の方々にも理解されない舞台裏があり、誤解や誇張交じりの情報が悪気なく世間の皆さんに伝わっていくのは、もう仕方がないことだよなと割り切っていました。

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 私自身は何かを起こすつもりはなくても、結果として、いつの間にか何かしらの対立構図が生み出されていく――。私の行動の大半は、やむにやまれず、そうせざるを得なくなってのものでした。私は常々、志を胸に、淡々とやるべきことをやっていくのみ、その理念を最優先にして生きてきましたから、理解されなかったとしても、後悔はありません。「何十年後かにでも、本当のことを分かってもらえたら、それでいいや」というくらいの感覚でした。