昨年、衝撃的な形で相撲界を去った貴乃花。角界きっての名門に生まれ、大横綱に登り詰めていく姿は平成の時代を彩った。その一方で数々の騒動の渦中にあり、波乱に満ちた激動の相撲人生でもあった。「ライバル・曙との死闘」「宮沢りえとの婚約と破局」「洗脳騒動の真相」そして「日馬富士暴行事件の内幕」……など。

 今年、「週刊文春」誌上で反響を呼んだ連載を一冊にまとめた本書「貴乃花 我が相撲道」では、貴乃花本人が約半年間におよぶ密着インタビューに応じ、これまで明かすことのなかった心境を語り尽くしている。その冒頭を掲載する。

貴乃花インタビュー
貴乃花光司 ©︎文藝春秋

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人生の新たなステージに突入

 私が日本相撲協会からの引退を表明したのは、2018年の9月末のことでした。あれからまだ1年ですが、もう何年も経ったような気がします。それまでの私には、相撲協会という所属組織があり、貴乃花、そして貴乃花部屋の看板があり、弟子がいて、家族がいました。それらが取り払われ、今はまさしく“一兵卒”として、次の道を歩んでいます。ここに至るまでの経緯を思うと、残念な気持ち、心配な気持ちがなかったわけではありませんが、まとめて「卒業」の時代を迎えたといいましょうか、現在は人生の新たなステージに突入した期待感に溢れています。

 年6回の本場所と地方巡業、日々の稽古や弟子の育成と、1年間の過ごし方が決まっていた力士、師匠時代とは違って、相撲協会を引退してからは、行動範囲がより大きく広がりました。講演や相撲教室などでいろんな地域を回っていると、先々で「何をどう目指してやってきたのか」と、よく聞かれます。誰しも、自分のやりたいこと、叶えたい夢があるはずです。そして、成功するまでの道のりは、必死で取り組むものです。壁にぶち当たったり、挫折してしまった時、あるいは夢を叶えて次の目標を見失った時、立ち返るべきなのは、本当に基本的なことです。今の自分がある環境に感謝の気持ちを持つ。たったそれだけです。それがあるかないかによって、同じ場所に立っていても、見える景色が全く違ってきます。身近に「ありがとう」と言える存在がいる――それは、何を手にするよりも幸せな生き方だと思います。