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裁判長が「2度と来るな」と諭す被告人の条件

メモさえ持たず、80分もかけて、被告人に対する疑惑の糸を解きほぐすように検察の証拠をことごとく粉砕していったのだ。話術の巧みさ、抜群の記憶力、論の立て方と筋道の通った説明は説得力にあふれ、裁判員たちをくぎ付けにしていた。

最後に弁護人は言った。

「もしこれが正当防衛でないなら、この国はもう、どんな暴力を受けても反撃してはいけないのと同じことになってしまう(中略)被告人の運命はみなさんの掌の中にあります。その掌を握りつぶすことだけはしないでください」

判決は無罪。絶対に冤罪にはさせないと心に決めた弁護人が、持てる能力をフル稼働させた秀逸な弁論だった。

▼忘れられない法廷のプロの技【裁判長・検察編】

傍聴席を号泣させる、巻き込む話術・演技力

裁判長の人柄が現れるのは、判決言い渡し後の説諭(悪事をしないよう被告人に諭すこと)にあると思っている。説諭をするかどうかは裁判長にゆだねられ、まったくしない人もいれば、必ずする人、事件によってしたりしなかったりの人といろいろだが、個人的にはするほうがいいと思っている。説諭には再犯防止の意味合いが強いからだ。

かける言葉は以下のようなものが代表的である。

「あなたには待っている人がいるのですから、刑務所でしっかり反省し、罪を滅ぼし社会復帰したら、二度と犯罪を犯してここに戻ってくることのないようにしてください」

実刑判決を受けた直後、気落ちしている被告人に、自分には親や家族がいるんだと希望の光を与えることばだろう。孤独な被告人にはこうだ。

「刑務所を出てからも人生は続きます。あなたには先があるのですから、大変なこともあるでしょうが、ヤケにならず、自分を大切に生きなければだめですよ」

「奥さんの墓を守っていくこと。それは、あなたにしかできません」

僕はかつて、裁判長の名調子にもらい泣きしてしまったことがある。妻の自殺をほう助した罪で逮捕された初老の男性に執行猶予付き判決を下した後、ぐっと身を乗り出し、次のように語りかけたのだ。