被告人を裁く法廷は、裁判長・検察官・弁護士が働く現場だ。彼らの腕の見せ所はその「話術」。傍聴歴19年で『なぜ元公務員はいっぺんにおにぎり35個を万引きしたのか』(プレジデント社)を上梓したノンフィクション作家・北尾トロ氏が「法曹三者がプロ魂を発揮し、おもわずもらい泣きしてしまった言葉」を紹介する――。
地味で退屈な法廷がドラマチックになる瞬間がある
僕が裁判傍聴をはじめてから19年がたつ。法廷は被告人が裁かれる場所であると同時に、裁判長、検察官、弁護士のいわゆる法曹三者が働く現場でもある。
今回は過去に傍聴した裁判の中から、僕が「これぞプロフェッショナル!」と唸った事例を紹介したい。正直にいえば、退屈極まりない裁判も多いが、法曹三者の彼らはいつも淡々と職務をこなしている。あまり血が通っているとは言いがたい事務的やりとりに終始するケースがほとんどだが、彼らにも「プロ魂」を発揮する瞬間があるのだ。
▼忘れられない法廷のプロの技【弁護人編】
圧巻の「最終弁論80分」で無罪判決を勝ち取る
日本の刑事裁判の有罪確率は99%以上だ。被告人が罪を認めていれば、裁判が始まる時点でおおよその判決まで予想がつく。「判例重視」と批判されることもあるけれど、似たような事件で判決が大幅に変わったらおかしなことになってしまう。そのため、有罪判決が見込まれる裁判では、情状酌量による減刑や執行猶予付き判決を得ることなど、量刑をめぐる駆け引きが繰り広げられる。
なかには被告人が否認する事件もある。でも無理のある主張が多く、長年裁判所に通っていても、無罪判決を聞く機会はほとんどない。証拠も動機もあり、どう考えても被告人が犯人なのに「だとしても、そうさせたのは被害者だから私は無罪です」と訴える被告人を見ていると、代理人としてその主張を通さなければならない弁護人は大変だなと思わされることも多い。
もちろん、それはそれでプロとして立派だ。しかし、ごくまれに、刑事弁護を志した人なら誰もが思うであろう「本気で検察とのガチ勝負」に挑み、成功を収めることがある。