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ところが、それに近いことが起きたのである。

拙書『なぜ元公務員はいっぺんにおにぎり35個を万引きしたのか』(プレジデント社)に収録した、本のタイトルになった事件。被告人は43歳の無職男性。3つの大学を卒業した元公務員で手話通訳のプロだったが、ワケあって路上生活を強いられ、逮捕時の所持金はたった147円だった。

「絶対に、いいですか、絶対に、二度と罪を犯してなりませんよ」

被告人の人生や犯行に至る経緯が法廷内で明らかになってくると、あろうことか検察が被告人に同情したのか、どこか戦意喪失したような口調で「意見・求刑」を行ったのだ。

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「重大な罪を犯した被告人には罰則を与えるべきである」という“演技力”を求められるのが検察官だ。熱く訴えるべきところを実にあっさりとすませてしまった。何の意図もなくこんなことをするはずがなく、「なるべく軽い刑でいいですよ」というメッセージとしか思えなかった。

それを察知したのか、弁護人は最終弁論をくどくど述べず、裁判長に花を持たせる粋な計らいをする(ように思えた)。傍聴歴19年目で初体験した法曹三者の連係プレー。裁判長が満を持して熱い説諭を口にしたのは言うまでもない。

「あなたは絶対に、いいですか、絶対に、二度と罪を犯してはなりませんよ(中略)まだ十分、人生を立て直せるはずです。わかりましたね」

北尾 トロ(きたお・とろ)
ノンフィクション作家
1958(昭和33)年、福岡県生まれ。法政大学卒。フリーターなどを経て、ライターとなる。主な著書に『裁判長! ここは懲役4年でどうすか』『裁判長! おもいっきり悩んでもいいすか』などの「裁判長!」シリーズ(文春文庫)、『ブラ男の気持ちがわかるかい?』(文春文庫)、『怪しいお仕事!』(新潮文庫)、『もいちど修学旅行をしてみたいと思ったのだ』(小学館)など。最新刊は『町中華探検隊がゆく!』(共著・交通新聞社)。公式ブログ「全力でスローボールを投げる」。