父は自殺、母は毒親――。ゲイの男の子が過酷な家庭環境でも生き抜いてきたこられたのは、かけがえのない出会いと愛があったから。おせっかいでも人の悩みを聞いて、一緒に考え、腐らずに立ち向かってみる、そんな「ゲイ風俗のもちぎさん」のルーツが明かされる初の自伝エッセイ『あたいと他の愛』が現在発売中です。もちぎさんの心に刻まれた17歳の高校生活。
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高校2年生に上がった頃、あたいは日々アルバイトに売春にと忙しなく過ごしていた。
貯金もちょっと貯まって、それで姉ちゃんが実家に残していったボロボロの原付バイクを修理に出した。これで行動範囲が広がるから、少し遠くの地域であっても売春の募集をかけられる。それにバイクのシートの中には収納スペースがあったので、あたいはそこに印鑑やお金、あと通帳を隠せるようになった。もしも母ちゃんに売春で貯めたお金を知られたら、有無を言わさずに没収されるだろうし、それ以上にどういう行動に出られるかわからない。
母ちゃんはゲイを許さない、とその時から確信していた。彼女も、テレビで面白おかしく話すオカマタレントには嫌悪感を示さず笑うが、それは他人事だからだ。ゴシップが好きな母ちゃんは、有名男性歌手にゲイ疑惑が出た時「キモ」とだけ呟いて冷笑を浮かべていた。もしそれが自分の息子なら、その時みたいにせせら笑うだけで済むだろうか。いや、間違いなく怒り狂うだろう。母ちゃんはそういう人だ。
キーンコーンカーンコーン、と、授業の終わりを告げるチャイムが鳴る。あたいの通っていた高校は新しめの設備が多くて、チャイムもデジタル感の強い電子音だった。毎日バイトで疲れてて、睡眠不足だったあたいにはイイ目覚ましだったわ。
高校2年生の2学期になったある日、教室移動の授業に向かうため、あたいが自分の教室から教科書を持って出ると、隣のクラスから1人の男子がちょうど出てきた。
「おう、もちぎ~」
元気よく声をかけてくれたのは、1年生の時に仲良くしていた元クラスメイトの男子、エイジだった。クラスのみんなに分け隔てなく接する子で、顔もかわいく愛嬌があったし、女子からの人気も高かった。1年生の時は彼と一緒に少人数制の授業も受けたりして、よく話していたわ。それにお互い勉強についていけなくて赤点ギリギリで、一緒にマクドナルドで勉強会をしたこともあったの。なんとなく気が合うので、まったくタイプとかじゃ無いけど好きだったわ。