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「でも俺、もちぎが思うほどリア充じゃないんだよな~。 けっこうオタクだし、高校上がってからも少年ジャンプとか読んどるよ」

 2人で靴箱がある玄関ホールに着くと、エイジはそう謙遜するように切り出した。当時はまだまだマンガ・アニメ文化への風当たりも強く、それらを楽しむのは、電車男(映像化されたアキバ系オタクのラブストーリー)で扱われたような典型的なオタク男性だというのが世の一般的なイメージだった。

 確かにそういったオタク系の子達とも分け隔てなく話しているところは見たことあるけど、どうしてもエイジのイメージにはそぐわなかった。彼は生粋の外向的ムードメーカーな人間に見えるし、そういうグループで活動するのが苦でも無さそうだったから。

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 エイジは自分がリア充(リアルが充実したイケイケで外向的な人間の俗称)だと思われたくないと、あたいに否定してきたけれど、彼がつるむ友達はオシャレで彼女のいるような男子ばっかだったし、女子もスカート短めのやんちゃなギャルが多かった。といっても、みんな根はまじめな若者だったけど。とにかく類は友を呼ぶというか、エイジの周りの子はエイジに似てキラキラした人気のある子達だったように思う。そんな子達と並んでいる彼が、そういった2次元の文化に慣れ親しんでる姿は想像しづらかった。もちろん趣味と見た目は関係無いし、カナコの例にあるように活発な子でもアニメ・漫画・ゲームが好きな人は好きなんだけど。

「まぁ姉ちゃんほどオタクじゃ無いけどな。うちの姉ちゃんってほんと引くほどオタクでさ~」

 エイジは取り繕うように話を続ける。置き勉を取った後、廊下を2人で歩きながら彼はカバンから本を2冊取り出して、あたいに見せてきた。

 そこにあったのは、“メガネBL”と書かれた商業BLのコミック本だった。あたいはめちゃくちゃ焦った。本屋で見たことあるBLコミックが、まさかのエイジのカバンから唐突に出てきて話題にのぼるとは思ってなかったから。

父は自殺、母は毒親――。ゲイの男の子が過酷な家庭環境でも生き抜いてきたこられたのは、かけがえのない出会いと愛があったから。おせっかいでも人の悩みを聞いて、一緒に考え、腐らずに立ち向かってみる、そんな「ゲイ風俗のもちぎさん」のルーツが明かされる初の自伝エッセイ『あたいと他の愛』が現在発売中です。もちぎさんの心に刻まれた17歳の高校生活。

あたいと他の愛

もちぎ

文藝春秋

2019年11月14日 発売