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流れていく地球の風景――宇宙から見えた“国境”

 青々と輝く昼間の地球は相変わらず美しく、夜になれば今度はときおり“眼下”の宇宙空間に流れ星が見えた。そんな風景を無心になって見ていると、地球全体が命の塊であるように感じられた。その思いは自分でも意外なほど自然に、心のなかに「ポコっと音を立てるようにして」生じた。

 地表の眺めはあまりに多様でいつまでも見ていられた。

「やはり何度見ても印象的なのは、地球の青さでした。ガガーリンが『地球は青かった』と言った時代にはそれが放送されることなんてなかったから、僕らの世代にとってはすごいキャッチコピーだったんですよね。それにその60年代は米ソが核ミサイルを持って対峙していたし、62年のキューバ危機のときなどは、大学生だった僕は『地球は滅びるかもしれない』という危機感を真剣に持っていました。そういう時代背景のなかでの『地球は青かった』というあの言葉は、やっぱりいろんな人の心のなかでこだまし合って膨らんだイメージだったと思う。だから、『青い地球』というのは地球を見る際の僕の視点に大きな影響を与えていたんでしょう」

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 次々と流れていく地球の風景を懸命に見ながら、「ブラジルの上空はいつも雲に覆われているな」「ラオスやカンボジアなど、インドシナ(半島)の辺りはすごく赤茶けているな」と彼は思った。

宇宙から見たアフリカ大陸 ©JAXA/NASA

 とりわけ地球儀で見ているようなアフリカ大陸では、赤道直下の土地の砂漠化の進行の深刻さが一目見てすぐに分かった。それから彼は「宇宙から見る地球には国境がないとよく言うけれど、本当にそうだろうか」とも思った。

 例えばシナイ半島を見ると、灌漑用水が発達したイスラエルは緑色をしており、それ以外の土地は赤茶けている。夜の朝鮮半島は38度線の辺りを境に、煌々(こうこう)とした光と重く沈んだ闇とに分かれている。「要するに、これは国境なんじゃないか」と彼は感じた。

 人はなぜ宇宙へ行くのか――。

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