1990年、日本人が初めて宇宙に飛び立ってから約30年。これまでで合計12人の日本人が宇宙飛行を経験し、地球をこの星の「外」から眺めてきた。歴代すべての日本人宇宙飛行士への取材を行い、彼らの体験を一冊にまとめた『宇宙から帰ってきた日本人』が発売中だ。今回は「初めて宇宙に行った日本人」、秋山豊寛氏が語る宇宙から見た夜明けの美しさを取り上げます!

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漆黒が深い青へと変化していくグラデーション

 低軌道と呼ばれる地上400キロメートルの高さを周回する宇宙飛行士は、地球のいくつかの時間帯を一望に見渡すことができる。

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 大地の片側が茜色に染まり始め、それが徐々に薄い墨色になり、ついには背後に広がる宇宙の濃密な闇に溶けていく……。薄い大気の境目で漆黒が深い青へと変化していくグラデーションには、それこそ息を飲むような美しさがあるという。

 1990年12月9日、8日間にわたった宇宙飛行の最終日、秋山豊寛はソ連(当時)の宇宙ステーション「ミール」の個室の窓から、地球のそんな美しさにただただ見惚れていた。TBSの「宇宙特派員」として日本人初の宇宙飛行に挑んだ彼にとって、ジャーナリストとして忙しない中継を終えた最後の3時間は、自分のためだけに地球を眺められた唯一の時間だった。

 地球を見つめていて彼が最も圧倒されたのは、90分に一度やってくる夜明けの瞬間だった。とりわけ真っ暗な夜の地球の向こう側から太陽が現れる際の色彩の変化は、地上では決して見られないものだと感じた。

「こんなことを言うと、宇宙に行って頭が変になったんじゃないか、いい加減なことを言っているんじゃないかと思われると感じて、当時は言わなかったんだけれど……」

 少しきまり悪そうに断ってから、秋山はその瞬間の光景を次のように表現した。

「太陽が地表のすれすれを照らし出すとき、恐らく青い波長の光が最初に拡散して、次の赤い波長の光だけが残っているんだと思うんだけれど、水平線というか地平線に当たる部分が本当に深紅に輝くんですよ。で、『あ、夜明けだ』と思った瞬間、深紅に染まった縁の部分が一気に真っ白になる。その一瞬は本当に頭がガーンとして、色が音になってワーっと響きながら迫ってきた、と感じたくらいでした。本当に様々な色の全てが音になって、心地好い音楽のように自分の身体に入ってくるような気がしたんです」

宇宙から見える夜明け ©JAXA/NASA

 場所は東京駅直下の「東京ステーションホテル」のロビーラウンジ。日本人初の宇宙飛行から30年近くが経ち、すでに75歳(取材当時)となる彼はそのときの光景をまるで昨日の出来事であるかのように語った。