ポールを取り調べたマトリ・小林取締官
ポール・マッカトニーがバンド「ウイングス」での日本公演のために成田空港に降り立ったのは1980年1月のこと。大麻219gを所持していたため、現行犯逮捕される。このとき、ポールを取り調べしたひとりが「マトリ」の小林潔という取締官であった。
小林はスパイの獲得やオトリ捜査のほか、ヤクザ組織への潜入捜査などで成果をあげ、また『覚せい剤を追え』(日新報道・1977年)を出版するなど、名の知れた取締官であった。この『覚せい剤を追え』には、地域ごとの覚醒剤の呼び方が載っている。映画やドラマでは「シャブ」といったり「ヤク」といったりするけれども、小林作成の呼び名ランキング表では「1位 シャブ 35県」「2位 ネタ(タネ) 23県」「3位 ヤク 21県」となっている。ちなみに10位は「宇宙食」(5県)だ。
また小林は、週刊文春の「イーデス・ハンソン対談」(今でいう「阿川佐和子のこの人に会いたい」に相当するような連載)にも登場したことがある。ここで小林は、逮捕のきっかけは「協力者からの通報が一番多いですね」と語る(注2)。協力者とは要するにスパイだ。
そういえばこのたびの沢尻逮捕は、警視庁への「情報提供」がきっかけだと報じられている。「マトリ」に逮捕されたピエール瀧も「情報提供」がきっかけだ。これが市井の者からのタレコミなのか、協力者からのものなのかは知るよしもないが。
ポールが獄中で「イエスタデイ」を…
そんな小林が退官後に著した『白い粉の誘惑』(宝島社・2014年)に、ポールの話がでてくる。「ポールを乗せた車が中目黒の麻薬取締官事務所に着いた時には、ファンが事務所の庭に集まり、イエスタデイなどビートルズのヒット曲を合唱していた」。小林にすればいい迷惑だろうが、なんだか劇的な場面におもえる。
歌うのはファンばかりではなかった。獄のなかでポールは「イエスタデイ」を歌った。筆者の記憶が確かならば、その昔、ポールが「笑っていいとも!」かなにかに出演した際にいきなり「与作」を歌いだす。どこでそれを覚えたのかと聞かれ、「大麻で捕まったとき、寂しくないようにと他の収監者が歌ってくれた」といい、返礼に「イエスタデイ」を歌ったと話した。