塀の中で心を通わせた男が「イエスタデイ、プリーズ!」
その場に居合わせたヤクザが後年、そのときのことを著す。瀧島祐介『獄中で聴いたイエスタデイ』(鉄人社・2015年)だ。瀧島は拳銃の密輸にからんで商売仲間を殺害し、警視庁の留置所にいて、そこにポールが移送されて来る。異国の監獄で淋しさからタバコを吸う気もないのに喫煙所に来るなどしていたポールに、瀧島は話しかけたり、イチゴを分け与えるなどして心を通い合わせていく。
そしてポールが出所する前夜、彼のいる「二房」にむかって「五房」にいた瀧島は「ポール! イエスタデイ、プリーズ!」と叫ぶ。すると……
" その時、奇跡が起きた。ポールは私の声が聞こえたのだろう。「OK!」と叫んだ直後、冷たい板を手と足で叩き、リズムをとり始めたのだ。トントコ、トントコ、トントコ、トントコ―――。それから『イエスタデイ』を歌ってくれたのである。"
留置係も見逃してくれて、ポールは4曲ほど歌ったという。これまた劇的な場面だ。いっぽうで、小林はといえば、ポールを移送する際にも付き添ったためにその姿が新聞などに出てしまう。そうして顔が広まったことで潜入捜査ができなくなり、「ホッとする反面、一抹の寂しさも禁じえなかった」と著書に綴っている。
意外な場所で生歌が披露されはしたが、ポールのバンドの日本ツアーは中止となる。沢尻の場合はどうか。沢尻が出演するはずだった来年の大河ドラマが窮地だという。なにしろ6月から撮影してきた分をキャスティングからやり直して再撮影しなければならず、それも放送開始まで日がないため、一時は放送開始の延期も囁かれたが、代役の川口春奈でこれから撮り直すことになる。これこそ「プロジェクトX」でみたい舞台裏である。
(注1)週刊文春2016.12.22「マトリ“伝説の捜査官”逮捕 宿敵・組対五課が動いた事情」
(注2)週刊文春1981.7.16「イーデス・ハンソン対談」374回