2011年初夏、東京の夕暮れは311直後の節電政策で少し薄暗くて、なぜか懐かしい昭和を思い出させた。池袋北口の喫茶店『伯爵』は平常通りガンガンにエアコンを効かせ、地場のヤクザから裏家業人、チャイニーズ、雑多な人々が低い声で話している。そんな中で、150センチそこそこの小柄なその少女は、周囲の一筋縄ではいかなそうな人々に負けず劣らずの存在感を発していた。

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「あたしの話を聞け」と呼び出された

 高橋里奈、1992年生まれ。彼女と初めて出会ったのは、彼女が19歳になったばかりの頃だった。

 小さな細面に通った鼻筋に、薄いメイクでも目立つ大きな瞳が印象的で、背丈があればモデルで通用しそうな容姿の里奈が、初対面の見た目の印象とはかなり違う少女であることは、彼女が口を開いてすぐに分かった。

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 この日、当時取材記者だった僕は、彼女に「呼び出された形」で池袋に出向いていた。僕の著書を読んだ上で「あたしの話を聞け」と、彼女の方からアクセスしてきたのだ。

 確かに彼女の手元に置かれた本は僕の初めての著書である『家のない少女たち』(宝島社・08年刊行)。何度読み返されたのか、カバーもなくなりボロボロになったその本は、プリクラやデコレーションシールでギラギラにリメイクされていた。