『世界の中心で、愛をさけぶ』や『モテキ』『苦役列車』など俳優として、数々の映画、舞台、ドラマで活躍してきた俳優・森山未來。一方、2013年に文化庁の文化交流使としてイスラエルのダンスカンパニーに1年間所属するなど、近年はダンス作品にも積極的に参加してきた。芝居・ダンスと二つの領域を軽やかに行き来する森山は、今どこへ向かおうとしているのか。香港で行われたパフォーマンス制作の現場に、3日間密着した。
11月某日、森山未來は、ターバンにビーチサンダルといういでたちで、まだ夏の匂いが残る香港にいた。12月1日まで横浜・赤レンガ倉庫で上演される「きゅうかくうしお」新作公演『素晴らしい偶然をちらして』の制作のためである。
「きゅうかくうしお」とは、森山と、『パプリカ』などの振付で知られるダンサー・振付師の辻本知彦が、2010年に立ち上げたパフォーマンスユニットだ。当初は二人で立ち上げたユニットだが、今作は映像作家やサウンドデザイナーがメンバーに加わり、9名体制に。森山はメンバーと2週間あまり、香港にあるシティ・コンテンポラリー・ダンス・センターに滞在し、約2年ぶりとなる新作を作り上げようとしていた。週刊文春取材班は、その現場に3日間密着。週刊文春11月21日号に掲載された『ドキュメント男の肖像・森山未來』より、未公開のスペシャルカットを紹介する。
「自分たちの生活の最中で起きること」から作品が生まれてくる
――香港に来て5日ほどがたちましたが、いかがでしょうか。
森山 暑いですね。ほとんどダンスセンターに缶詰で、観光とか出来ていなかったので、昨日は一日メンバーのみんなと香港島を回れてよかったです。
――森山さんは以前から、“アーティスト・イン・レジデンス”(滞在制作)という手法をよく用いられていますが、今回香港に来た目的は?
森山 みんな東京で忙しくしている中で、こういうところに来ると、解き放たれるというか、物理的に他の仕事から遮断されるじゃないですか。作品のことだけを考えられる環境で、メンバーみんなと合宿みたいなことをすることが、大事かなと思っています。本来の“アーティスト・イン・レジデンス”の目的はそこだけではないんですけどね。
――と言うと?
森山 本当はアイデア出しくらいの段階でこういうことができるとベストだなと思っていて。たとえば、香港の町中をランニングしていて、知らない道に迷いこんでも、必ずどこかに抜ける感覚があるんです。突き当たりがないというか。それがすごく面白いなと思った。そういうことにクリエーションの早い段階で気づけると、作品を立ち上げる要素になっていきます。でも今回は、香港から帰るとすぐに本番なので、そういうアイデア出しというよりも作品をまとめる段階に入っていかなければならないんです。ただ、そもそもそういうインスピレーションって香港だからというよりも、自分たちの生活の最中に起こる、普遍的な出来事からくるものだったりするじゃないですか。
――普遍的な出来事。
森山 つまり、香港に行ったから香港のことを説明するとか、広東語をしゃべってみるとか、そういうことではないんです。今回作品の中でネオンを使うんですけど、ただネオンを使うことには意味がない。それはただ香港が、って言っているだけなので。ポリティカルなものでもいいし、歴史的なものでもいいけど、ネオンがどういう意味を持つのか、僕らなりにネオンっていうものを捉えなおさないと、作品には仕込めないと思っています。