そもそも自殺率は、社会の一面を照らす数字として学界でも使われてきた。フランスの人口学者エマニュエル・トッドは、ロシアで1990年代に自殺率が急増した点に注目し、ソ連崩壊後のロシアが国家としての衰退期に入ったと指摘したこともある。
ロシアで自殺率の急増が国家の衰退を意味したとすれば、韓国での高い自殺率は何を意味するのか。
まずは主要な数字をみてみる。経済協力開発機構(OECD)の自殺率統計に拠れば、韓国は2007年にロシアを抜いて以降、18年に自殺大国のリトアニアが加入するまでトップを独走。現在もOECD平均の2倍程度となっている。世界183カ国を網羅したWHOの統計に拠っても、10年、15年、16年の各年で韓国の自殺率はそれぞれ、7位、9位、10位だ。
WHOの統計のトップ10はロシアを除けばガイアナやスリナムなど国内総生産(GDP)が世界50位以下の発展途上国ばかり。先進国である韓国(およびロシア)の自殺率の高さは異様な存在感を放つ。
韓国では女性の自殺率が高い
韓国に特徴的なのは、自殺者の内訳だ。通例、60歳代以上の高齢者は若い年代に比べて自殺率が下がる。寿命による死が近づくのだから当然といえば当然だろう。だが、韓国ではむしろ70歳代から自殺率は急増し、80歳代では10万人あたり78.1人と、全体の3倍になる。
年金制度の整備が途上にあることも要因とされるが、問題は高齢者だけではない。他の国では男性の自殺率は女性の3.5倍となっているが、韓国では2.4倍。つまり女性の自殺率も他の国に比べて高いのだ。
自殺率に拍車をかけているのが芸能人の自殺だ。自殺総合対策推進センターのまとめによれば、韓国で18年10月にある芸能人が自殺してから2カ月の間は、前年同一期間比で国内の自殺者数は7割増の3081人に。その前の月に別の芸能人が自殺した際にも5割近く増えている。
08年に韓国の俳優アン・ジェファン(享年36)が練炭自殺した際には練炭自殺の数も急増しており、マスコミの報道が自殺を助長している面もある。
高い自殺率の原因は何なのか。
自殺の禁忌をキリスト教ほど強調しない儒教に責任を負わす議論は簡単だが、単純に事実に反する。そもそも韓国人の3割はキリスト教徒とされているし、何より1990年代半ばごろまで、韓国はむしろ自殺率が低く、日本を追い抜いたのも2002年に過ぎないからだ。