現在、オーストラリアに亡命申請をしている「元スパイ」の27歳中国人男性、王立強(ワン・リーチァン)。足を洗う決意をしたのは、台湾総統選をめぐる「新たな任務」がきっかけだったという。蔡英文(ツァイ・インウェン、63歳)総統の再選を阻んで、中国寄りの最大野党・中国国民党が政権奪取し、台湾独立の芽を完全に摘み取るための下地を作るというミッションだ。
架空のパスポートを発給された
「5月14日に上層部から台湾渡航のための書類一式を受け取った。それは、中国人民解放軍国防科学技術大学の研究機関に属する『王強(ワン・チァン)』の名で発給された、住所や出身地、出生年月日もすべて架空の中国パスポートと、永住権を保証する香港永久性居民身分証(HKパーマネントID)、『오강(王鋼、ワン・ガン)』の名で発給された韓国パスポートだ。中国パスポートにはフランスのビザも貼られていた。韓国パスポートは台湾や米国の出入国を容易にするため用意された。
すべてはスムーズに工作活動を行うためのものだ。スパイには『名もなき英雄』になることが求められる。これらの書類を受け取ったとき、ああ……王立強という人間がこの世界から抹消されたのだということを自覚した」(王)
台湾での活動はスパイの拠点となっている香港企業、中国創新投資(CIIL)の向心(シァン・シン)会長の妻・ゴン青(「ゴン」の漢字は、「龍」の下に「共」)が主管し、2018年11月に投開票された統一地方選挙でも王を含む複数のスパイが妨害工作を仕掛けた。3カ所にサーバーセンターを設けて20万以上の偽アカウントを作り、SNSにフェイクニュースを大量投入。与党・民主進歩党(民進党)の関連サイトや民進党シンパの個人アカウントなどには個別に攻撃や嫌がらせを繰り返したという。
選挙工作には人民解放軍の陸海空3軍も深く関わっている
主要メディアには幹部1人当たり年間200万~500万元(約3000万~7700万円)のカネを渡し、蔡英文総統への攻撃と世論誘導を依頼しているらしい。「中天電視(CTiTV)」「中国電視(CCTV)」などの国民党寄りテレビ局は実際、蔡英文を貶める番組づくりに余念がない。
さらに王は、台湾の選挙工作には人民解放軍の陸海空3軍も深く関わっていると話す。
2018年の統一地方選で、空軍は15億元(約233億円)を投じポータルサイト運営企業やネットメディアを買収。陸軍も大量の資金を投じて中国人留学生や中国人観光客などを動員し、国民党の応援キャンペーンを張った。海軍は直接、国民党の候補者に献金し「たとえば、高雄市長候補の韓国瑜(ハン・グオユィ、62歳)の陣営に2000万元(約3億1000万円)を渡して“韓流ブーム”を巻き起こし、韓はその効果もあって初出馬初当選を果たした」(王)という。