ある日突然、オーストラリアの情報機関の門を叩き、亡命を求めてきた中国人青年。彼は2019年5月まで丸5年間、中国のスパイとして働き、香港の雨傘革命、銅鑼湾書店事件、台湾統一地方選などに深く関わってきたという。その“告白”の狙いとは――。
報道番組に素顔で出演した
習近平政権の足元が大きく揺らいでいるのだろうか。
11月に入り、中国の非人道的な強権支配を暴くリークが相次いでいる。11月16日には、中国共産党が新疆ウイグル自治区のイスラム教徒約100万人に対して組織的に行っている洗脳や予防拘禁のおぞましい実態が、403ページに及ぶ機密文書の漏洩で明らかになった。
11月20日には、香港の英国総領事館元職員・鄭文傑(サイモン・チェン)氏が今年8月、中国当局によって拘束・監禁された際に受けた殴打や睡眠剥奪、自白強要など、執拗な拷問の生々しい詳細を自身のフェイスブックで明かしている。
そして11月23日。豪メディアは、27歳の中国人男性、王立強(ワン・リーチァン)が防諜機関のオーストラリア保安情報機構(ASIO)に出向き、「私は中国共産党のスパイだった」と告白したことを一斉に報じた。王は情報提供と引き換えに政治亡命を求めていることも伝えられ、騒ぎは拡大している。
王は翌24日、豪テレビ局ナイン・ネットワークの報道番組『60ミニッツ』に素顔で出演。同じ日にネット配信された『ヴィジョン・タイムズ』など複数の活字メディアでも、中国共産党による買収工作や脅迫行為がどれほど民主主義国家に浸透しているかを赤裸々に告白した。
水面下では現在、王の身柄引き渡しを巡り中豪間で激しい攻防が繰り広げられているとみられるが、この段階で亡命申請者が素顔や身分を明かすのは異例中の異例だ。