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 2015年10月から12月にかけて、中国共産党に批判的な書籍を扱う香港「銅鑼湾書店(コーズウェイベイ・ブックス)」の店長ら関係者5人が相次いで失踪する「銅鑼湾書店事件」が起きたが、事件には王本人も深く関わったという。彼は向心と拉致実行部隊の間を取り持つ中継係で、書店株主の李波を自ら拘束している。

「ゴシップ色の強い暴露本『習近平與他的情人們(習近平と愛人たち)』を販売したことが北京の逆鱗に触れ、書店を取り潰す直接の引き金となった」(王)

 ただ、銅鑼湾書店の林栄基元店長は11月26日、台湾民主派メディアの取材を受け「王立強という名前や彼と似た風貌の男は見たことがないし、彼が拉致したという李波からも、そのような男に連れ去られたという話は聞いていない……」と述べ、証言に疑問を呈した。

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大学生を洗脳

 中国共産党は、若者を中国共産党シンパにするための工作にも注力し、王立強はこのミッションを主軸に情報工作を展開した。

 CIILとチャイナトレンズは香港で、若者の学業や起業支援を名目にした2つの教育ファンドを立ち上げ、中国共産党の学生向け宣伝工作拠点に据える。中国共産党は2ファンドに毎年5億元(約77億円)の活動資金を助成。王らスパイは大学のキャンパスの奥深くに入り込み、香港と台湾の学生に手厚い奨学金や旅行費用などの各種優遇策を打ち出して取り込みを図っていく。香港に住む中国人留学生のための学生組織も結成し、民主派香港学生の個人情報を盗むようけしかけもした。

香港旺角(モンコック)の街並み ©iStock.com

「中国人学生は単純で、わずかでもカネになる、得すると感じれば、何でもホイホイ喜んで協力した。今年の香港反政府デモでも、私が組織した中国人留学生たちがデモ隊と衝突したり、デモ隊に紛れ込み、前線で故意に過激な行動を仕掛けたりしている」(王)

「妻子にその脅威が及ぶことを何よりも恐れる」

 それにしても王立強はなぜ今、生命の危険を冒してまで中国共産党と袂を分かったのか。

 一番の原因は家族ができたことだろう。王は3年前に華人女性と結婚、現在2歳になる一人息子を儲けた。「いずれ妻子にその脅威が及ぶことを何よりも恐れるようになった」「嘘で塗り固めた人生に巻き込みたくないと思い始めた」と強調する。

 妻は結婚後に留学のため豪州へ移住し、子育てをしながら研究に従事している。王は2018年12月、妻子を訪ねるため休暇で豪州を訪れ、親子3人で束の間の生活を送った。その時の体験や亡命申請後の豪州生活で、市民が民主と自由を謳歌していること、今までやってきたスパイ活動が卑劣なことを深く恥じるようになり「『新たな任務』を拒む決断をした」という。

「新たな任務」とは、2019年5月28日に台湾入りし、2020年台湾総統選挙の情報工作を前線でサポートすることだった――。