天皇皇后両陛下は、4月7日、硫黄島を訪問される。太平洋戦争の激戦地となった硫黄島は、なぜ戦後80年を経た今でも民間人の「原則上陸禁止」が続いているのか。
話題作『硫黄島上陸 友軍ハ地下ニ在リ』の著者・酒井聡平氏と、『散るぞ悲しき──硫黄島総指揮官・栗林忠道』の著者・梯久美子氏が語り合った。
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メディアの責任
酒井 新聞記者なら、(硫黄島で行われる)外務省所管の日米合同慰霊式や防衛大臣の現地視察に同行するチャンスはあります。
ただそれも原則、外務省や防衛省の記者クラブに入っている記者だけです。仮に行けたとしても、自由行動はなし。バスに乗せられて“観光ルート”を一周するだけです。毎回同じところを回るので、写真も毎回同じ。新しい情報は何もありません。
これはメディア側にも責任があります。民間人上陸を禁止して、メディアの視線を遮断して、「あそこは荒れ放題の島で遺骨が眠っていても仕方ない」「墓場の島としてそっとしておいた方がいい」と国民に思い込ませている。これに新聞も加担してきたわけです。
「国内なのに、上陸できないのはおかしい」とメディアがもっと抗うべきだったのに、国の方便をそのまま受け入れてしまった。その結果、硫黄島に関しては、戦後80年も経つのに、まさに“時が止まった”ように、メディアが報じる情報も国民の認識も、いっさい更新されていません。
梯 なぜ民間人は上陸禁止なのか。その理由として、ご著書では核密約に触れていますね。
酒井 1950年代から秘密裏に核関連の兵器が配備されるようになり、冷戦下で硫黄島が米軍の核の秘密基地と化していくなかで、遺骨収集も島民帰還も許されなかった。
その核兵器は後に撤去されますが──硫黄島返還の動きが日米間で本格化した時期と重なります──、1968年の返還時に、「有事核貯蔵」について少なくとも日本側が黙認したと解釈できる曖昧な公文書を残しています。これが「核密約」と呼ばれているものです。
梯 それは今も有効なのですか。
酒井 名古屋外国語大学の真崎翔氏によると「核保存場所としての硫黄島の役割はほとんど終わっていますが、核密約は今も有効で今後も続くでしょう。米国としては、密約を取り消して、既得権を自ら手放す必要などないからです」と。
梯 硫黄島の電波通信施設と電波障害の問題も大きいようですね。

