女性オリンピックメダリストが続々登場
大河ドラマのヒロインといえば、普通は主人公の妻や、あるいは主人公が女性の場合を思い浮かべることが多い。しかし『いだてん』におけるヒロインは、女性のスポーツ選手たちである。走り、泳ぎ、投げ、打ち、アタックを決める女性たちが、『いだてん』という物語の、ある面から見た「主人公」だったのだ。
たとえば『いだてん』第26回『明日なき暴走』は、日本初の女性オリンピックメダリストである人見絹枝の物語だった。主人公であるところの田畑も金栗もあまり登場せず、ただ人見がどのようにオリンピックで戦ったのかを描く回だ。
さらに第36回『前畑がんばれ』は、日本初の女性金メダリストである前畑秀子の物語。第45回『火の鳥』は、日本初の女性団体競技金メダルを獲得した日本女子バレーの物語だった。
#いだてん スペシャルムービー公開🎬
— 大河ドラマ「いだてん」 (@nhk_td_idaten) September 15, 2019
日本人女性初の金メダルに挑む #前畑秀子 。日本オリンピック史に輝く伝説が始まります。#前畑がんばれ
📺 #いだてん 第36回「前畑がんばれ」9/22(日) [総合]夜8:00 pic.twitter.com/DkCbdGXike
「男は負けても帰れるでしょう、でも女は帰れません」
『いだてん』の冒頭で、のちに主人公・金栗の妻となるスヤが自転車に乗っているが、その足は袴で覆われている。女性がそもそも足を出すことすら「破廉恥だ」となじられる時代だったのだ。実際に父親から「靴下を脱いで走るなんてありえない」と反対される女学生の姿や、人のいない路地でだけこっそりと走る女性の姿も、『いだてん』では描かれている。
しかし時は下り1928年。日本人離れした能力の陸上選手・人見が100m走で決勝に進めず涙する。そして800mに参加させてくださいと叫びつつ、こう言う。
「男は負けても帰れるでしょう、でも女は帰れません。ニッポンの女子選手全員の夢が、希望が、わたしのせいで絶たれてしまう」。
男性と女性では、ここで背負っているものが異なる。女が一度でも失敗したら、「それみたことか、女が運動なんて百年早い」と言われてしまう。まだ女は戦っている段階なのだから。――そうはっきりと述べた『いだてん』のヒロインは、たしかに日本のフェミニズムの幕開けを示している。