2015年、埼玉県熊谷市で小学生2人を含む6人を殺害したとして強盗殺人罪などに問われたペルー国籍、ナカダ・ルデナ・バイロン・ジョナタン被告(34)の控訴審判決が12月5日、東京高裁であった。
高裁は死刑とした一審を破棄し、無期懲役を言い渡した。被告が統合失調症の影響で心神耗弱の状態だったと認定した。 ナカダ被告は被告人質問で「殺していません。もし私が6人を殺していれば、私を殺せばいい」などと発言。主文は下を向いて聞いていたという。
最大の争点は責任能力の有無。一審さいたま地裁の裁判員裁判は、被告が統合失調症だったと認めたが、「残された正常な精神機能に基づき、金品入手という目的に沿った行動を取った」と完全責任能力を認定し、弁護側が控訴していた。一審裁判員裁判の死刑判決が高裁で破棄されたのは6件目で、判決には意見が分かれそうだ。
事件の背景には何があったのか――。当時、事件の概要や被告の家庭環境などを報じた「週刊文春」2015年10月1日号を再編集の上、公開する。なお、記事中の年齢や日付、肩書き等は掲載時のまま。
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マチュピチュなどの史跡には数多くの日本人観光客が訪れる親日国ペルー。だが、そのイメージは1人の殺人鬼により一変した。彼は無差別に児童2人を含む6人もの命を絶ち、自殺行為に及んだ。この異常な犯行の背景にあるもの、それは想像を絶する生い立ちだった。
両腕を傷つけるのは自分を強くみせるための示威行為
「お前らなんかには負けねえ!」
包丁で自分の両腕を切り、神に十字を切って民家2階の窓から飛び降りる間際、ナカダ・ルデナ・バイロン・ジョナタン容疑者(30)の脳裏にはこんな思いが浮かんでいたのかもしれない。
観念して自殺を図った、日本人の多くはそう思っただろう。
だが、スペイン語ニュースサイト「ノティシアス・ニッポン」編集長で日系ペルー人の多嘉山ペルシー氏はこう語る。
「両腕を傷つけるのは、ペルーの犯罪者や不良が自分を強くみせるために行う示威行為なんです。つまり、彼はあのとき警察官を前にして『俺はまだまだいけるぞ!』と自らを鼓舞したのですよ。自殺なんかじゃない。あの行動をペルー人が見ればすぐに分かります」
埼玉県熊谷市の3軒の住宅で6人が犠牲になったペルー人男性による連続殺人。容疑者は事件前、電話で複数の知人に「誰かに追われていて殺される」と話していたという。
「ケイサツ、ケイサツ」「カナ、カナ」の意味
「カナ、カナ」
熊谷市内の60代男性に、ナカダ容疑者がこう片言で語りかけてきたのは9月13日の午後1時過ぎだ。
その男性が話す。
「近所から帰ってくると自宅敷地内に外国人男性が立っていて驚いた。言葉が通じない様子で、財布をこちらに見せ、ポンポンと叩いた後、左手を頬に当て、電話をするような仕草で『ケイサツ、ケイサツ』。『カナ、カナ』は後から考えると神奈川のことだと思います。目つきがおかしく、意思がない感じでした」
その後ナカダは熊谷警察署で聴取を受け、神奈川県川崎市に住むペルー人の姉に電話を掛けるが、警官が通訳を呼んでくる間に喫煙に行くと見せかけ、そのまま逃走。この時、現金3000円余りが入った財布や携帯電話等を置き忘れている。